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  • その13「仲良くなった人が遠くへ行ってしまうのはなんでだろう」

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⚫︎午後3時の銭湯デート

 やはり運命の人なのであろうか。
 Oくんと私は同じ地元の小学校の1年1組になった。
 しかも背丈で机の席順を決めるので、斜め前後の席になった。
 思えば、二人とも本当に中ぐらいの大きさなのだった。私の隣は初めて会うSくんという今でいうところのややチャラい感じの明るい子だった。私の後ろでOくんの隣に座っているのは、お父さんが一流ホテルのシェフをしているあのKちゃんだった。
 ど真ん中で隣の席になるより、斜め後ろにいる方がなんとなく気になるものである。
 クラスは35人。一人ひとりの性格を知ることができる良い人数だったと思う。障害を抱えた子どもも2人いた。
 Oくんと私は、2学期に揃って学級委員になった。
 何かと一緒の作業が多く、本当に仲良くやっていた。ある時、二人で駄菓子屋さんの前を通りかかると、幼稚園で暴れん坊で有名だった一つ上のYが囃し立てた。

「あいつら恋人同士や。わーいわーい、ヒューヒュー」

 何人かで通せんぼをしようとした。その時、Oくんは突然私の手をしっかり握って走り始めた。
 誰もいなくなったところで、手を離した。息が上がって、胸がドキドキ鳴った。
 やっぱりこの人は私のカブトムシだと、確信した。

 どういう経緯であったか、Mちゃんという一番背の高い女子と、Nくんといういちばん背の高い男子と、Oくんと私で、午後3時の銭湯へ行ったこともあった。
 おそらくNくんとOくんが話をしていて「3時に始まったばかりの銭湯へ行ったら、誰もいなくて泳げる」というのを聞いたMちゃんが、私を誘ったように思う。
 私たちは怒られるとか、そんなことは何も考えなかった。
 親に言うと、誰と誰でいくの、と確かめられたが、歩いて3〜4分の場所にある銭湯の奥さんも知り合いだったから、笑って許してくれた。

 午後3時きっちりに、清水湯は暖簾がかかった。ガラガラっと引き戸を開けるとお湯の匂いと、安いシャボンの匂いがした。

 小1の私達はそれぞれにタオルと洗面器を持って、番台の下に立っていた。

「子ども、4人です!」

 番台の上の奥さんは「しゃあないな」という感じで笑っていた。
 お金を渡すと、男子二人は一目散に男湯の脱衣場へ向かい、Mちゃんと私もついていった。

「走ったらあかんよ、滑ってこけるよ」

「はあい」

 服を脱いで白い湯煙の中へ入っていく。誰もいない大きな湯船は、最高の遊び場だった。
 みんなちゃんとかかり湯をして、湯船に入る。

「わー。気持ちええ」

「ちょっと熱いなー」

 慣れてくるとちょっとお湯の掛け合いっこをしたくらいで、私たちは割と大人しく出てきた。
 親にもらったお金で、マミィか何かを飲んだと思う。小1の私は、コーヒー牛乳を1ほんは飲みきれなかったように思う。

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