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その15「野営の香り」
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  • その15「野営の香り」

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●ブラウニーという妖精の話

 日曜日が退屈だった。

 我が家は母方の祖父母の家にほど近い大阪市旭区というところにあったが、父方の実家は大淀区豊崎というところにあった。(今は梅田と同じ北区に併合された)
 地下鉄で言うと御堂筋線の中津に近かったが、阪急梅田の茶屋町あたりまでは徒歩15分ほどだった。

 父は長男であることを背負っており、毎週日曜日には実家に顔を出すことを鉄則としていた。
 旭区の家から父の実家までは車で20分ほどだ。幼稚園ぐらいまではそういう習慣なのだから当たり前に付き合っていたが、その家で日曜日を過ごすことがだんだん辛くなっていった。

 「おかん、おかん」と、父は祖母と話し続ける。祖父は黙ってそれを聞き、時々昼寝していた。母と弟と私はかなり退屈なので途中で梅田まで散歩に出かけた。
 茶屋町の阪急かっぱ横丁から三番街あたりは程よく賑わっていた。紀伊國屋書店の本店もあり、キディランドもあった。

 しかしそれでも毎週の同じ繰り返しに私は飽きていた。
 母はこれではいけないと思ったようだった。どんどん物事を吸収する時期に、子どもはもっと外へ出すべきだと。よその父親はあちこち連れて行くのも知っていた。

 そこで探してきたのが、ガールスカウトの小学低学年版「ブラウニー」であった。
 とんがり帽子に白いブラウス、あずき色のスカート。4年生からのガールスカウト「ジュニア」は、ベレー帽でブルーのワンピースに茶色いスカーフ。
 とりあえず1年生の私はとんがり帽子をかぶることになった。

 「ブラウニー」というのは、こんなストーリーに裏付けられていた。
 あるとき、家の中で知らない間に部屋が綺麗になっていたり、小さいこどもをすやすや眠らせたりしているのに、主人は気づく。どうやら妖精が人が見ていない間にやっているらしいというのである。
 それに気づいたその家の少女も人が見ていない間に喜ばれることをするようになる。

 「人が見ていない間に、人に喜ばれることをする」。

 それが、奉仕精神の本質を説いているのである。
 要するに、人が喜ぶことをこれ見よがしにやってもダメだということだ。
 ガールスカウトはイギリス人、ロバート・ベーデン・パウエルが創設したと思うが、特に宗教から起こったものではない。しかしどこか「天に宝を蓄えよ」というキリスト教の聖書の教えがあるように思う。

 …とにかく私はガールスカウト大阪85団に入団した。
 清掃活動や、ユニセフや赤い羽根の募金活動の他、集会では歌をうたったり、踊ったり、ゲームをしたりした。表千家の先生が来てくれる茶道教室なんかもあった。

 とりわけ、舶来の香りがする歌やゲームは楽しかった。
 「チェッチェッコリ」というような歌詞とともに腰を振って踊るアフリカ民謡など、初めて聴く言葉やメロディが私をわくわくさせた。
 やがて夏の「野営」…キャンプのための歌やスタンツの練習が加わった。
 スタンツというのは、キャンプファイヤーでやる出し物で、グループ毎に踊ったり寸劇をしたりするのである。
 私は帰宅しても歌集を広げたり、パンフレットのようなものを読んで思いを巡らしていた。

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