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    第193回:GAKU&佐藤典雅(アーティスト)

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《2》GAKUに必要なのは療育ではなく、生きやすい環境だと思った

 GAKUの本名は、佐藤楽音(がくと)。2001年に生まれた彼は、名前を呼んでも振り向かず、言葉も出てこない子ども。赤ちゃんのときは常に抱っこされていないと癇癪を起こし、少し成長しても車の赤信号で泣き叫ぶなどしたそうです。

「3歳のとき、自閉症と診断されました。そのとき、よかったと思うのは、僕が自閉症という言葉をよく知らなかったということです。『なんなんだ、それ』と、あまり深刻にはとらえなかったんです。それに自閉症、って症という字がつくからには病気でしょう。治療したら治るのかなと思った。だったら、治せるところへ家族で移住しようと」

 佐藤さん一家は自閉症の研究が進んでいるというアメリカ、ロスアンゼルスに移り住みました。

「ロスで最先端の療育プログラムを受けることになりましたが、よく見ていると、だんだん違うな、と思えてきたんです。自閉症は病気ではないんですよ。むしろ、生まれもった特性、なんです。治す、と考えるのはおかしいんですよね。療育で普通に近づけるというのもおかしい」

 GAKUが14歳のとき、佐藤さんは帰国を決断しました。

「帰国して、日本の福祉施設を見てまわりました。そのときは衝撃を受けましたね。教室の空間も、指導者たちも明るくない。どうしようか、不安になったとき『じゃあ、自分で福祉施設を作ったらいいじゃないか』と河野誠二さんに言われ、二人で『アイム』を始めることにしました」

 現在のその施設を見せていただきました。カラフルなシャンデリアがかかっていたり、ソファーがあったり、ゲーム機があったり、パソコンがあったり。スタッフの女性たちも皆さん明るく、質問に笑顔で応じてくださいました。

「スタッフの半分は、自閉症などの障害をもつ子どもの母親です。『泣いてるヒマがあったら働きましょう』って。自閉症の行動パターンを社会の仕組みに無理強いするような、ねじ曲げるような訓練の仕方はしません。自分がやりたいことのために頑張るムリはいいけど、周りから押し付けられるムリはNGです。まずは生きやすい環境をつくればいいんです」。

GAKU&佐藤典雅

《3》思いきり画材を与え、とことん描かせてみた

 GAKUは自閉症に加え、重度の知的障害と多動症であるという診断を受けていました。ところがそんな彼が、ある日、絵に目覚めます。
 それは、遠足で岡本太郎の絵を見に行ったことがきっかけでした。

「翌日教室にきて『GAKU PAINT!』と叫んだんです。キャンバスと絵の具を与えると、そこにあったトレーシングペーパーに描き始めた。最初の作品は、黒く塗った背景に赤、青、緑、オレンジなど8個の球体が描かれていました。それをタイヨー、タイヨーと言いながら描いていたんです。確かにGAKUは岡本太郎美術館で太陽の絵を見ていたそうなんですが、誰もそれを太陽だとは教えていないんです。それを見て、福祉のスタッフだったココさんが『才能があると思います。彼の才能に投資してみませんか』と言ってくれました。それで60万円分の画材を買い与えました。ココさんはもとはファッション・デザイナーで、実家が画廊という人です。ただ、画材の使い方を説明するだけで、何を描けとか、何色を使えとは言わなかったそうです」

 それからGAKUは堰を切ったように、一心不乱に描き始めました。

「下地を均一に塗りたい、絵の具のバケツを空にしたい、という特性があるようで、キャンバスを4枚くらい塗り込めます。それが乾くと、1日で描いていく。僕はとことんやらせてみる。気が済むまでやらせてみろと。それはゲームとかも同じだと思うんです。ゲームなんかしちゃダメ、って親は取り上げるけど、1週間でも眠らせないほどやらせてみる。そこで賢い子なら何か学ぶし、ダラダラやる子なら、将来はパチンコ屋通い確定で諦めるほかないでしょう(笑)。今の親は「マンガを読んだらバカになる」とはいいません。つまり大人は『自分が子供の時になかったもの』に対してアレルギーなんです」

 描き始めて9ヶ月で画集を出した頃、またGAKU自身が「絵、飾る〜」と言い出します。

「最初の世田谷区民ギャラリーの5日間の個展で10枚絵が売れて150万円も売り上げたんです。僕は初期投資の60万円がこれで回収できたとほっとしました。
(笑)もちろんそれにも増してよかったことは、GAKUが多くの人から認められ、大きな自信を得たことでした。がっちゃんの仕事は?と尋ねられると、PAINT!とというようになりました」。

GAKU&佐藤典雅

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