上質な暮らしを想像させる、大人がかぐわしい日常と記憶を語るインタビュー連載「今、かぐわしき人々」。
第1回は、敏腕編集者からファッションディレクターとして活躍の場を広げる、干場義雅さん。
自称「香りフェチ」という干場さんに、香りへのこだわり、空間の香りの演出などについて、素敵な話を伺いました。
白いTシャツをゴールドのバングルやチョコレート色のバーキンといった小物でダンディに着こなして現れた干場義雅さん。
匂い、というより、清潔な気配がまず漂ってくる。
香りへの目覚めも早かったという彼は、東京で3代続くテーラーメイドの息子。まずはファッションへのこだわりも強かった。
「最初に買ったのは、「ポーチュガルの4711(フォーセブンイレブン)」っていう柑橘系の香水でした。嗅いだ瞬間は、爽やかなシトラスの香りで、だんだんとオレンジ系の香りになっていき、だんだんネロリのような香りに変わっていく。ボトルも、ヨーロッパを感じさせるようなクラシックなボトルの形状で、色合いもブルーとゴールドで、少年心に、なんてお洒落なんだろうと思っていました。
15歳の頃デートに行くときには、シャワーを浴びた後につけていましたし。その香水をアイロンの水の中に入れて、白いシャツをかけていたりしました。父がスーツを作る職人でしたので、なんとなく影響を受けていたのかも知れませんね」
でも香水については誰に教わったわけでもなかったそう。
「母親の化粧台には、いろいろな香水がありましたけど……。『ゲラン』のミツコとか『シャネル』のNo.5とか、いわゆる昔のこってりした香りというか。これが女性の香りなんだなと思った程度でしたけどね。まさか、自分が興味を持つとは思いませんでした」。
そんな彼が香水を集め始めたのは、15~16歳のとき。
「下北沢に輸入品を扱う香水屋さんがあって。バイト代をためては揃えていっていました。男性ものも女性ものも。
だから今、どのブランドの何、っていうのがわかるんです。
デザイナーが考えるクリエイティブの根源を探っていくのが楽しかったんですよね。それは服に関しても同じなんですが」
この香りで、デザイナーはいったい何を表現しようとしているのか。その奥にどんな思いがあるのか。驚くべきことに干場少年は最初からそんなことを考えていたのです。
「香りって、その香りをかぐと、旅に出られるじゃないですか。エスニックな香りもあれば、淡い香りもあるし、想像もつかない香りもあって、言葉では説明できない香りもある。
エスニックな香りをつけるとアフリカにいるかのようなイメージをもてたり。そういう楽しさがありますね。想像を膨らませることができる。それは、香りというものがやはりひとつのクリエイションだからだとも言えると思います」。
では実際に、男性は自分の香りをどう探せばよいのか。その答えを干場さんは自分だけでは決めないことだと言います。
「好きな人と一緒に探すのがいいですね。香りは自分だけのものじゃないから。奥様や恋人がいかに心地よく感じて、しかも自分が好きだと思うのがいい香り。自分だけが好きだという香りは、ひとりよがりですよね。その香りに悪酔いしてしまうようなのはよくない」
自分の香りを見つけたら、次はどこにつけるのか。干場さんは実際に香水メーカーの社長さんに取材したなかで、明確な答えをもっていました。
「まず、LEONで香水メーカーの社長に取材に行ったときに教えてもらったのは、『パルスポイント、つまり脈打つところにつけるのがいい』ということでした。でもフランス人はそこにはつけないと言ってて。書いちゃダメと言われたけど(笑)、毛のなかにつけるのが一番セクシーだと。フェロモンと混ざって独特の香り方をするというんです。
イタリア人はジャケットの襟の裏につけたりするんです。なぜかというと、ハグしたりするときに香るから、と。そういうテクニックもあります」
ヨーロッパ男性ならではの、セクシーで高度なテクニック。でも日本人にはちょっと敷居が高そう。
「過ぎたるは及ばざるが如し、ですからね。香り過ぎた場合は、もう一回シャワーして薄めるとか、頭上にワンプッシュしてその下をくぐるのもいい。
でも、まず香りをつける前に匂いを落とさないとね。それをやらないと、変な匂いと混じっちゃう。その前に食べるものも気をつけなくちゃ。食べるもので体臭も違ってきますから。一回、きれいにしてからのほうがいいんじゃないかなと思いますね」
意外と自分では気づかない、自分のもともとの“匂い”。
「それは体臭もあるし、髪の毛の匂いもあるんです。
僕はテレビで男性のルックスを改造するコーナーを長くやらせてもらってるんですけど、すごくもともとの匂いを感じます。
髪の毛をカットしたりもするんですけど、髪の毛穴から発する匂いもあるんですよね。そういうのはとらなきゃいけないと思います。
一概に香りをつけるといっても、まとうだけじゃなくて、まず取らないと、って思いますね」。