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海の香り漂う地に忽然と現れる赤い家。スペインのタイルの美しさにひたるpatio
    1. コラム
  • 海の香り漂う地に忽然と現れる赤い家。
    スペインのタイルの美しさにひたるpatio

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 翻訳家でもあるオーナーの吉田美意子さんは、メキシコ、スペインでの滞在経験から、いつしかスペイン産のタイルの美しさに魅了された人。理想的にタイルを手元に置ける環境を求め、葉山から三崎へ。オープンしたばかりのショールームは、まさに彼の地にいるかのような赤い壁。網代の森へと続く広い中庭には、陽の光が降り注ぎ、三浦湾と富士山をのぞめます。

メキシコからスペインへ。そして結婚してもスペイン語で仕事を

 三崎口の駅から車で5分ほど走ると、右手にまるでスペインの家が現れたかのような一角が現れました。ブーゲンビリアの木に守られるように建つ赤い壁の家は、窓の下に美しいタイルが施されています。
 ここが、あらゆるスペインのタイルを集めたショールーム、patio(パティオ)。
 オーナーの吉田美意子さんは、お洒落で笑顔の明るいマダム。翻訳家として夫の芳田祐三の著書である『ガブリエラ ミストラル』(JICC出版)も手伝われています。知性がすっと一本通ったまっすぐな背筋に、志を感じます。
 若い頃には、まずメキシコに留学したそうです。

「名古屋の南山大学でスペイン語を学んでいましたが、留学したくなりまして。本当はアルゼンチンに行きたかったのですが、日本人はビザがおりないので、メキシコに行くことにしました。2年いたのですが、日本と同じように学生運動がすごかったんです。国立大学を戦車が囲むような状態でした。そこへ通訳として朝日新聞の記者と出かけて行ったりしていたので『そんな危ないところにいなくても』と、親に言われました」

 メキシコには2年。その後、スペインに行くことに。

「スペインはメキシコに比べると暗いなと感じましたね。マドリッドで大学に通い、真面目に1年勉強しました。そこで父から『3年で十分だろう』と帰りのチケットが送られてきまして。日本に帰ることにしました。親は帰国したら私にお見合いをさせるつもりでたくさん写真をもらっていたようです」

 しかし、吉田さんはまずスペイン語を使って仕事をしたいと思ったようです。

「昭和初期の元首相だった山本権兵衛さんの孫娘だった真紀子さんが、白金で日本・キューバ文化交流研究所というのを主宰していたんです。そこに入りました。でも、だんだん『女は結婚するもの』という気分になってきて、そこから最初に出会った吉田と結婚したんです」

 夫の悠三さんは、文学研究者。前出のガブリエル・ミストラルの足跡を辿り、一緒に中南米を旅したそうです。
 その悠三さんも、吉田さんが52歳の時に急逝されたのでした。

翻訳家でもあるオーナーの吉田美意子さん

アンダルシア地方で花のようなタイルたちに魅せられて

 やがて吉田さんは葉山に土地を買い、好きだったスペインのタイルのビジネスを始めました。

「スペインに留学したとき、南部のアンダルシア地方へ行きました。私は名古屋の出身なので、愛知にはいろんな窯元があり、焼き物にはもともと興味があったのです。でも現地でタイルを見たときに、こういうものはなかなかない。本当にきれいだと思った。お花屋さんのようにこういうタイルを集めた店をやってみたい。それで、徐々にいろんなタイルの窯の社長を紹介してもらいました。取りまとめてくれる人を探して『誰がいいか』といろんな方に聞いたら、みんながこの人だと」

 ただ仕入れるだけではなく、吉田さんはタイルについて深く学ぶことにもなりました。

「イギリスからタイルを輸入していた方に1ヶ月通うように言われて、タイル本来の作り方や、その施工の仕方まで、しっかり教えてもらいました。それから『葉山のピカソ』と呼んでいた左官屋さんにもお世話になりました」

 葉山では小さな小屋のようなお店でしたが、思い切って、広さを求めて三崎へ移転することに。

「とりあえず、やれるだけやってみようと。これまで注文してから2ヶ月で到着していたのですが、今は船が減り、4ヶ月もかかってしまうんです。でも、家を建てるのには6ヶ月くらいかかるし、タイルを貼るのは最後なのでなんとかそれくらい待っていただいて」

 家を建てる予定があって、キッチンや水回りのタイルを探しているお客様は、ホームページを見て予約して来られます。来た方の9割がすぐにお気に入りを見つけ、決めて帰られるそうです。

2階にあるショールーム

ショールームの床にも、連ねたときの様子がわかるサンプルが

 2階にあるショールームで、実際にたくさんのタイルを見せていただきました。
 それはもう色とりどり。どうやって絵付けをしたんだろうという作品然りとしたものもあります。絵画的なものもあれば、ストーリーになっている絵も。
 ムスリムのモスクで見られるような、幾何学模様のもの、抽象的な柄もあります。そういった柄はたくさん散りばめることで大きなものが見えてきそう。それもこれも、タイルの深い楽しさなのでしょう。

「組み合わせたときの感じがわかるように、床にもサンプルを埋め込んでみたんです」

 ここにもそこにも、別のタイルが。でも不思議と、落ち着くのです。

 また無地のタイルも、微かな濃淡やぽってりとした質感があたたかみを感じさせてくれます。
それがたとえ寒色系や、白であっても、です。

「絵画的なものは、額に入れてもいいんですよ」

 確かに1枚でも十分に存在感を発揮してくれるタイルもあります。
 コースターや鍋敷にも使えそう。

 他に、絵付けの美しい皿やボウルなどの器も扱っておられます。厚みのある器は、盛り付ける料理をとびきり美味しく見せてくれるでしょう。

絵付けの美しい皿やボウルなどの器

翠の香りと汐の香りと、スペインの赤い土の香り

 ショールームのある建物の奥には、白いアイアンのスツールとテーブルが。その向こうには、三浦の海と青い空が広がっています。

「今年の6月30日に、ショールームをオープンしました。この景色がとても気に入ったんです」

 風には森の緑の香りと汐の香りが混じり、タイルにはスペインの赤い土の香りがします。
 吉田さんと過ごしたひとときは、スペインの昼下がりのようでした。タイルが美しく絵的に配されたキッチンから、じゃがいものトルティージャが焼ける、美味しい香りも漂ってきたのです。


スペインタイル専門店「パティオ」
https://www.patio.ne.jp/


photo by Yumi Saito
http://www.yumisaitophoto.com/
Text by Aya Mori

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