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第8話 『プチトマトと夏野菜のキッシュ』
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  • 第8話 本日のお客様への料理『プチトマトと夏野菜のキッシュ』

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 幸の人生は、半分以上おせっかいでできている。
 確かに、土日にブランチを出せば観光客も来るかな、とは考えたことはあった。
 しかし自分だけではちょっと手が足りない。ひとりくらいアルバイトを雇って、などとも思っていた。
 驚くべきことに、凛花が大城のことを好きらしいからなんとかしてあげたい、というおせっかいは、妙な着地を見てしまった。
 凛花をバイトに雇う、ということだ。
 大城の帰り際、咄嗟に「週末ブランチをやる」「凛花ちゃんが手伝いに来てくれる」と言ってしまった。
 けれども幸は、凛花の手伝いを、さほどあてにはしていなかった。
 大城が来そうな日になんとなく彼女を呼んで、サービスを手伝ってもらおうくらいの腹づもりだったのだ。
 だが凛花は本気を見せた。

「幸さん。私に調理も教えてもらえませんか」

「お料理はやったことはあるの」

「いいえ」

 凛花の返事は、あまりにもきっぱりしていた。

🥂Glass 1

 日中の最高気温は35度、というような月曜日。
 日陰のない代官坂は人影もまばらだ。
 ヒトサラカオル食堂の「定休日」という看板の向こうで、長い髪をきつくポニーテールにした凛花と、いつものギャルソンエプロンをした幸が向かい合っていた。
 二人のテンションはまたかなり熱かった。

「これ、つけて」

 幸は、買っておいた自分と同じエプロンを凛花に付けさせた。

「うん。なかなかいいんじゃない」

 見た目から入るのも大事だ。

「わあ、ありがとうございます。嬉しいなあ。なんだか、自分が料理ができる人のような気がしてきました」

「大事大事。気がするのは、大事よ」

 ブランチは、キッシュからと決めていた。これならホールでいくつか焼いておけば、その場で切って温めて、スープとサラダをつけて出せばよい。
 そしてとりあえず、今日は試作でいい、と幸は思っていた。

「試作のキッシュを作ります」

「はい」

「冷凍のパイを伸ばして、型に入れて、フォークで穴を開けます」

「あ、これは楽勝」

 凛花は力一杯フォークを突き刺している。

「いやいや、そんなに力入れたら型が傷ついちゃうよ。適当にね」

「あ、はい」

「でね、玉ねぎとベーコンとマッシュルームは、塩胡椒で火を通しておきます。こんな感じ」

「なるほど… あ、今何入れたんですか」

「少しだけナツメグね」

「どうなるんですか」

「ちょっと甘い香りがつくの」

 凛花はフライパンに鼻を寄せた。

「ほんとだ。私、この香り好きです」

「ハンバーグの玉ねぎを炒めるときにもちょっと入れるといいのよ」

「ナツメグ、ナツメグ、メモメモ」

 凛花は真面目にスマホにメモして、氷の入ったグラスの水をごくりと飲んだ。

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