
白檀、檜、沈香。…日本香堂は最高品質の香木を扱い、香木の香りやその素晴らしさをこれまで主に線香やお香という形で生かしてきました。その魅力ををもっと性別や年齢を問わず、本物志向の人たちに知ってもらうことはできないだろうか。
…そこで選ばれたのが入浴剤。
「瞑想香浴」を掲げ、調香師・平野奈緒美さんを中心とした女性たちの「KODU」プロジェクトが立ち上がりました。

その日の疲れを癒し、自分におつかれさまを言う。バスタイムは多くの人にとって日々の安らぎの時間です。それを証明するように、世の中にはたくさんの入浴剤が売り出されています。入浴剤に求める機能を満たしつつ、私たちが日々使いたいもの、そして日本香堂がつくる意味のあるものは何か。
そこで香りの会社である日本香堂は「香りをテーマにした入浴剤」をつくることになりました。
プロジェクトは調香師の平野奈緒美さんと、営業部・マーケティング部・研究室の各部署から構成された元気な女性たちのメンバー。
「日本香堂の新しい入浴剤ですから、香木をコンセプトに開発しましょうということになりました。サンダルウッドの香りはリラックス感が高く、香木の王道なので、サンダルウッドは入れたいと思いました。それから、日本では昔からヒノキ風呂を好む人が多いので、ヒノキははずせない。もう一つ、日本香堂ならではのセレクトとして、沈香を入れたいと思ったんですね。沈香は海外ではoud(ウード)と呼ばれて上質な香水には使われたりしていますが、入浴剤に使われる例はほとんどありませんから」
沈香は、特定の木が風雨や害虫などで傷ついた際に樹脂化してできた偶然の産物で、質の良い香りになるまでには長い年月が必要と言われています。日本の歴史において『香』といえば沈香をさすように、長く愛され尊ばれてきた香りです。
「お香で聞く沈香は、あたたか味や豊かな奥行き、抱擁感があります。そのふんわりと優しく漂う香りが瞑想する情景につながりました。それをお風呂に入ることで体現できたらいいなと」
そこで生まれたコンセプトが「瞑想香浴」でした。
「お風呂に入ることで瞑想できる。素の自分に戻れる。それを叶えるには、ある程度香りが持続することが必要です。まず10分は続くようにしたい。一般的に入浴剤の香りは、湯に入れた瞬間、さーっと立ち上がって、消えてしまいます。香りが拡散した後で残った香料の成分が水に溶け込んでしまうためです。「KODU」は香りをゆっくりと楽しめる、これまでにないものをつくりたかったんです」。

商品は「どのような情景で香りに浸る瞑想シーンか」を考えることから始まりました。生まれたワードは、
白檀は『苔生すような古刹』『明るい光』。
ヒノキは『光差し込む深い森』『爽やかな風』。
沈香は『温かで湿度の高い熱帯雨林』『やさしい雨』。
それに合わせたイメージボードをチームメンバーで作り、平野さんがそのビジュアルイメージから香りを監修しました。
一瞬だけではなく、10分以上香りが続くこと。入浴剤でありながら、平野さんはトップノート、ミドルノート、ラストノートと香水のような香りの設計を考えました。
「「KODU」はシンプルな香木系のウッディノートをメインにしています。それぞれの香りが持続するようにとても工夫しました。」
平野さんは、丁寧に香りを設計していきました。
「白檀はトップノートがあまりないので、シトラスやハーブを加え、ベースにクリーミーな柔らかさ、甘いバニラのようなノートも加えました」
その香りは「苔庭(こけにわ)の光に聞く」と名付けられました。白檀とはいえ、ハーブの爽やかさも加わり、ほっとするようななごやかさがあります。
一般的に入浴剤によく使われるヒノキにもこだわりを込めました。
「ヒノキは軽やかなところがありますが、それだけだとトップノートで終わってしまうので、中間にグリーン、ハーブ、そしてヒノキの香りが続くようにセダーウッドなどのウッディ感も入れました。そうすることで、涼やかではあるけれど深林の中にいるようなしっとり感も出ます」
商品名は『深林の風に聞く』。
一番むずかしかったのは、沈香だそうです。
「沈香は複雑な香りです。甘、辛、酸、苦、鹹(かん🟰塩味)という香りの五味が整ったバランスの良い香りで、重厚なウッディノートと樹脂系の合わさったような香りです。これを入浴剤にするのはすごくチャレンジングでした。沈香の香りを崩さずに香り立ちが良く続くものを作ることが一番難しかったです。沈香の持つアンバーやアニマリック(動物のにおい)を前面に出してしまうと、清潔感がなくなるんです。清潔感を保ちつつ、木の重厚感、お香をたいたときのような幽玄な感じを出すのがハードルが高かったですね。ジャスミンやイランイランの品のある甘さをトップにもってきて、メインの沈香につなげていきました」
沈香の香りは「琥珀(こはく)の雨に聞く」というネーミングになりました。実際に使ってみると、気品とゴージャスさも感じるような香り。特別な日に使いたい香りです。
プロジェクトチームの皆さんは、実際にお風呂に何度も入って試作品を確かめたそう。
「みんなで感想を言い合いながら、香りの方向性を決めていきました。5分経った後、10分経った後、それ以降、といった持続の度合い。お湯の肌への感じ方。コンセプトに合っているか。とにかく実際に入ってみたそれぞれの体験を話し合いました」。
