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今かぐわしき人々 第237回
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    第237回:山口馬木也さん(俳優)

    更新日:2025.1.6

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自身のなかにないものはいくらどうつくって芝居に頼ってみたところで、
結局、別のものが伝わってしまう。

 8月中旬に東京池袋「シネマ・ロサ」で公開された、安田淳一監督によるインディペンデント映画『侍タイムスリッパー』。11月末までに全国340館公開という大ヒットとなったこの映画で、主演の高坂新左衛門を演じたのが、山口馬木也さん。デビューしてから25年。名脇役として数々の名作に出演してきましたが、初の主役となったこの映画のヒットで、一躍脚光を浴びています。
幸先の良い池袋で、フレグラボのインタビューに応じていただきました。実直な物腰はまさにどこか「高坂殿」です。

《1》「この映画でなにかをつかもう」という気持ちはまったくなかった

 上背もあり、彫りの深い顔立ち。時代劇の衣装ではない山口馬木也さんが現れると、その場が華やぐような気配があります。しかしご本人は、至って平常心で、謙虚な姿勢。
 映画の大ヒットも、まだ信じられないといった表情です。

「脚本を読んだとき、すごくいい映画だなあと思ったんですけどね。まさかまさか、監督もああいうふうによく撮ってくださって。ここまでウケるとは、本当にまさかまさかなんですが」

 映画のストーリーの舞台は幕末から始まります。江戸幕府を守ろうと志高い会津藩の藩士、高坂新左衛門は敵を待ち伏せし、出逢えたところで落雷に遭います。気づけばそこは、現代の京都の時代劇の撮影所。そこですでに幕府は無くなったことを知り、できることは斬られ役しかないと、一念発起。そこからは現代に順応していく彼がコミカルに描かれますが、ラストシーンでは、ガラッと空気が一変、手に汗握り、胸がいっぱいになります。
 主演の山口さんもさることながら、出てくる役者さんが皆自然体で、皆懸命なのです。監督も、制作費捻出のために自らの私財を投げ打ったそうです。

「僕自身、これで何かをつかもうなんて気持ちはまったくなかったんです。主役の器じゃないと思っていましたし。完成するかどうかもわからなかった時期もありました。監督が作ったものは絶対に面白いとは思っていましたが、こんなにたくさんの人に観ていただけるとは、携わった人間は誰一人思っていなかったと思います。当初は、主役も僕じゃないはずだった」

 実は当初、監督は、主役を山口さんではなく、冨家ノリマサさんと想定されていたというのです。

「僕が風見恭一郎の役のはずだったんです。でも、監督がNHKのあるドラマを観ていて、冨家さんを観て『この人が風見恭一郎だ』と思ったと。それで主役がいない、と思っていらした。じゃあ、山口馬木也を主役にするか、と」

 もはや一度映画を観ると、絶対に山口さんが高坂新左衛門だし、冨家さんが風見恭一郎なのですが。

山口馬木也さん

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