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    第237回:山口馬木也さん(俳優)

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《2》俳優の仕事を始めてから俳優に憧れるようになった

 山口さんが俳優デビューしたのは25歳。それももともと、俳優志望ではなかったのだそうです。

「遅いんですよね、デビューが。それで、ちゃんとした仕事をさせてもらうようになったのは、27~28歳だったと思います。それに、岡山の田舎の小僧で、美大に入って、絵本作家なんかになれたらお洒落だなくらいに思ってたんです。昼も夜もバイトをしていて、体壊したりもして。それで、話をもらったときに、役者ってお金になりそうと思って始めたんです。映画とか観てても、上手な方が出られているから、当たり前にできそうとか思っていたんです。この話をすると、いまだに冷や汗が出るんですけど、嘘ついてもしょうがないから。それで、始めてみてから、俳優に憧れるようになったんです」

 やり始めてから、俳優に憧れた。なかなか珍しいパターンです。

「特殊なタイプ(笑)。で、やってみたら、こんなにも手も足も出ないことって、過去になかったんです。僕は割と器用で、音楽もやっていたり、スポーツもできたし、そこで恥をかくということはそんなになかったから。ところが役者の仕事だけが、もう手も足も出なくて、びっくりしました。自分ができないものだから、ずっと続いているという感じなんです。もちろん、自分のことは俳優だと言いますが、いまだに手が届かないという仕事でもあるんですよ」

 なんだか山口さんのその俳優という仕事へのスタンスは、斬られ役でも上手くなろうとする新左衛門の姿と少しかぶるところがあります。

「新左衛門のような立派な志をもっているかどうかは別として、いろんな部分でリンクしているところはありましたね」

 やりたいことを上に見て、そこに届こうとする姿。武道のなかにある折目正しさ。日本人が本来もっていた真っ直ぐさ。

「でも、それは今の人たちも持っていらっしゃると思うんです。ただ、それを発揮できる場所がないだけで。皆さんに響くところがあったのは、そこだと思うんです。それを映画のなかで具現化された。あそこまで皆さんが笑ったり泣いたり手を叩いて喜んでくださるというのは、それが自分のなかにあるんだと思うんですよ」

 日本での観客の受け止め方と、海外での観客の受け止め方は明らかに違うのだそう。

「海外では違うところで笑いが起きたりするんです。たとえば、一騎打ちのときに、たすきをかけるでしょう。それを相手が待つ。そこで笑いが起こるんです。なぜ待つんだ、ということですよ。日本人ならわかるでしょう。それが美学というか。僕はカナダで観たんですが、カナダはフランス語圏で、フランスの人たちはそういうのを感動してくれるんです。それは日本の文化への造詣が深いからです。でもそういうものを持たないと、一騎打ちの中の長い間も、笑いになってしまう」
 日本人にしかわからない”間”の感覚。山口さんはそれをこんなたとえでも説明してくれました。

「三本締めとか一本締めとか、お手を拝借、よ〜っ、とやりますよね。あれ、1万人いても、日本人は揃うでしょう。でも、海外では無理です。僕はドラムをやっているときにその話を聞いたんです。だから『侍タイムスリッパー』のような映画を観ると、そういう説明し難いけれど共鳴している感覚が隠れていたりするのかなと思いますね」。

山口馬木也さん

《3》情感。義理人情。その人の根幹は、細部に宿る

 山口さんは名だたる時代劇や大河ドラマに出演しています。『侍タイムスリッパー』も、時代劇というものへのオマージュが流れていますが、ご自身も時代劇には思い入れがあるようです。

「小学1年から5年生ぐらいまで、剣道をやっていました。『変な癖がつくから邪魔になるときもあるよ』と言われたこともありますが、小さい頃から竹刀を持ってたという入り口は良かったと思います。非常に入りやすかったですね。だから、自分のなかでは、殺陣は一つの武器にしようと取り組んできました。ただ、あの映画にもあるように、京都にはもっとレベルの高い人たちもたくさん居られるし、それは知っていますので。だから褒められるのはありがたいけれど、どこか照れくさいような、申し訳ないような気もします」

 かつての作品のなかでは『剣客商売』で、故・藤田まことさんに出会ったことがとても学びになったそうです。

「藤田まことさん演じる秋山小兵衛の息子役だったんです。演技のことをとやかく言う人ではなかった。ただ、初めてのシーンが『大治郎、おかえり。食えや』と言われて、夕飯を食べる演技だったんですが、平幹二朗さんがいて、小林綾子さんがいて、梶芽衣子さんがいて、という現場ですからね、もうガタガタ震えてしまって。魚の煮物みたいなのを食べたんですが、もう緊張で口の中が渇いてしまって、飲み込めないんです。そのときに『そういうときは、椎茸の煮物かなんか、喉越しの良さそうなものを食べるんだよ』と言われました」

 演技ではそれ以来、何か言われたことはなかったそう。でも山口さんは藤田さんが何に怒るのか、何を気にしているのか、その一挙手一投足を見て学んだようです。

「たとえば、舞台で、お料理に見立てたプラスチックの作り物を持ってくるシーンがあったんですけど、それがお膳のなかでバラバラになっているのを、すごく怒っておられました。心がなさすぎる、って。垂れ幕の字が小さすぎたり、そういう細部の情緒みたいなものにとてもこだわられました。情感ですね。義理人情があるかどうか」

 山口さんは、そんな藤田さんの演技で忘れられないシーンがあります。

「藤田さんが、後ろ手で、とん、と扉を閉めるシーンがあったんです。そこで感動して涙が出たのを憶えているんです。神は細部に宿る、ということを胸に刻まれた気がして。ふとしたところに目をやると、そういうところにすべてが詰まっている。『何を感動してるんだ』と言われて、そう言ったら『そうか』と喜ばれていました。そこだけ意識してもできるものじゃないと思うんです。その人の軸が完成されているから、そういうところに出るということ。最後にアラが見えるというのは、その人の幹がダメなんだな、と思う。逆に言えば、なかにないものはいくらどうつくって芝居に頼ってみたところで、結局、別のものが伝わってしまう」。

山口馬木也さん

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