子どもの頃、引っ越しが多かったという山口さん。香りの記憶は一番落ち着く場所にあったようです。
「今日、この場所に入ってきて、お線香の香りがしたんで、すごく落ち着きました。というのも、僕は家庭の事情で結構転々と引っ越しをしたんです。本当にちっちゃいときは、けっこう立派な家に住んで、僕はじいちゃん子、ばあちゃん子だったんで、よく二人と離れにいました。そこに仏壇があるので、いつもお線香をたいていたんです。だから今日、その景色を思い出しました」
ご自身でも、お香をたかれるとか。
「40歳過ぎまでは、インド系のお香とか、現代っぽいものもたいたりしていたんですが、最近は、けっこう、白檀とか、ちゃんとしたお線香の香りが好きになって、ときどきたいています。寝る前は、ローズウッドの香りが好きです。わりと香りフェチですね」。
日々の暮らしをひとつずつ楽しんでいらっしゃる山口さん。これからも特に大きな野望はないと言います。
「役者になりたくて役者を続けているようなところがありますから。仕事がずっとあって、生活がしていけたらそれでいいかなと思うんです。ハリウッドへ行きたいとか、まったくないです。(笑)『これからの時代劇をどうしていきたいですか』とか訊かれると、僕が答えるのもおこがましい気がして。むしろ、真田広之さんのようにすべてをそこにかけておられる方に訊いてもらうしかない。僕は一生懸命考えて『もっとちっちゃい子にいっぱい見せてほしい』と答えました。それは日本人として気づきが多いと思うので。うちの子たちや友達の子どもたちは、時代劇を見せるとチャンバラごっこをしますから。この年代に見せると、時代劇の前にある壁がなくなるんだなあと思ったんです」
『侍タイムスリッパー』を観た子どもが、ちょんまげで学校に行ったというのをSNSで見かけたという山口さんは、とても嬉しかったそう。
「たまらなく嬉しかったです。そういう子たちが歳をとって、もっともっと時代劇が好きになったときに、面白い角度の面白い作品が観られるといいなあ」
そのためにも、山口さんがやるべき仕事はたくさんありそうです。
「自分の中でスキルというものを身につけられるのであれば。これからもそう思ってやっていければと思います。ただ、ここへきて『侍タイムスリッパー』という映画のファンの人たちがすごく応援してくださっているので、次に何に出るのか、すごく重要になってきました。そろそろ『役者になりたくて役者を続けてる』ということに付き合わせてはいけないのかなとも思います」
硬くて大きい、健やかな木の幹は、育つのにも時間がかかります。デビューして25年目で主役を得て、それがこれだけ大きな評価を受けているというのは、やはり「今がそのとき」だったに違いありません。
山口馬木也さんのこれからの活躍と存在感に、注目です。
映画『侍タイムスリッパー』公式サイト
https://www.samutai.net/
ヘアメイク・SHIGE
https://theshige.com/profile
取材・文 森 綾
フレグラボ編集長。雑誌、新聞、webと媒体を問わず、またインタビュー歴2200人以上、コラム、エッセイ、小説とジャンルを問わずに書く。
近刊は短編小説集『白トリュフとウォッカのスパゲッティ』(スター出版)。小説には映画『音楽人』の原作となった『音楽人1988』など。
エッセイは『一流の女が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など多数。
http://moriaya.jp
https://www.facebook.com/aya.mori1
撮影 萩庭桂太
1966年東京都生まれ。
広告、雑誌のカバーを中心にポートレートを得意とする。
写真集に浜崎あゆみの『URA AYU』(ワニブックス)、北乃きい『Free』(講談社)など。
公式ホームページ
https://keitahaginiwa.com