アイドル、俳優。華やかな仕事をしていた北原佐和子さんが、介護の仕事を始めたのは18年前のこと。ホームヘルパー2級、介護福祉士、ケアマネジャー、准看護師と、資格取得を着実に重ねて現場と向き合う彼女は、今秋、『ケアマネ女優の実践ノート』(主婦と生活社)という本を出版しました。介護を「コミュニケーション」の観点から考えるこの本は、介護に無縁な人でも、読んでおきたい心の問題が詰まっています。
11年前、介護士として働く北原佐和子さんを取材しました。雑誌に掲載された写真からスカウトされ、アイドルを経て俳優として時代劇などに出演。同時に、介護士の仕事も続けてきました。なぜそんな大変なことをしているのだろうと思いましたが、彼女は生き生きと真面目な介護士として、現場で働いていました。そのときは「父親が町内会のパトロールをしていて、とてもやりがいを感じているようでした。遺伝子的な要因かもしれませんね」ということでした。
その後も彼女はその仕事を極めていき、自らが必要と感じる資格を次々と取得していきました。
介護計画を立てるケアマネジャーの資格も取りましたが同時に不安も芽生えたそうです。
「現場で働くうちに、医療との連携の大切さを知り、医療を知らずに介護の仕事をすることに怖さを感じるようになりました。利用者さんの体の状態を医療の面からも知った上で、さまざまな面からその方に向き合うことが必要だと思ったんです」
そこで北原さんは、まず訪問診療の医師にボランティアで同行することにしました。けれどさらに怖さは募ります。
「医師と看護師のやりとりは病気や薬のことが中心で、私にはまったく話がわからなくて。そんな状況でプランを立てられるのだろうかと考えると、さらに怖さが増すようになりました」
少しでも医療を理解したい。俳優の仕事は仕事で、本当に突き詰めて頑張っていた北原さん。そんな経緯を正直に医師に打ち明けると准看護師の資格取得を勧められました。
「50代半ばという年齢で急なことでしたが、やるだけやってみようと飛び込みました。もちろん大変でしたよ。とにかく授業のプロジェクターが遠くて見えない。『教科書と照らし合わせて見てください』と言われるけど、暗くて見えない。スマホのライトを一生懸命使っていました。1年生のときは毎週、漢字のテストがあって、普通の教科のテストも常にあって。ずっと覚えることが山盛りでした。台詞を覚えるのとはまったく違うんですよね」
2年間、北原さんはひたすらに学びました。授業に加え、実習もあります。
「実習で大変だったのは、担当看護師さんにつくんですが、今日の計画をお伝えするんですよ。例えば乳がんで右の乳房を切除した患者さんの入浴介助をする場合、どういうプランを立てるか、それについての根拠を説明するんです。『なぜ必要なのか』という根拠を説明して、担当看護師に納得してもらえてから、やっと実習ができるんです」
患者の既往歴に基づいた症状の判断なども必要になってきます。
「既往歴をきちんと理解していれば、私たちの見守り方も変わってくるわけです。高齢者の方で高血圧をお持ちなら、頭痛やふらつき、それが脳出血や脳梗塞の可能性の場合もあります。早い段階で判断して対応していれば、大事に至らないですむこともあると思います」