
日々の暮らしのなかで、香りはどんな存在なのか、思いをめぐらせるきっかけとして。
東京・無印良品 銀座6階にあるギャラリー、ATLIER MUJI GINZAでは、現在『かおりをきく』展を開催しています。(2026年3月15日まで)
無印良品の香りのプロダクツへの探求と、日本香堂の長年の技術と歴史がとけあって、生活、歴史、体感、編集、言葉といった観点から香りを意識する美しい空間が演出されています。

無印良品 銀座の6階は、無印良品のフィロソフィーを体感できるATLIER MUJI GINZAというスペースが広がっています。
カフェやMUJI BOOKSのコーナーもあり、銀座の真ん中にあるとは思えない閑かで心地よい空間。このATLIER MUJI GINZA で開催中の『かおりをきく』展を、企画担当者の猪子大地さんにご案内していただきました。
今回の展示は5つのコーナーに分かれています。
まず、最初のコーナーは「かおりとくらす」。
「暮らしに関するコーナーから皆様をお迎えしています。このコーナーは、無印良品のものづくりの背景と、生活と香りにどのように向き合っていくか、どういう工夫をしているかを紹介しています」
サイズの短いお香や、ディフューザー、キャンドル。それらが整然と並んでいます。ここでは香りを試すことはできませんが、3階のヘルス&ビューティーの売り場で、試すことができるそう。これらの商品はどんなシチュエーションでどう使われるのか、徹底的に話し合い、リサーチしてつくられているようです。
「たとえば、お香。歴史的には時間を測るために使われていたこともあるくらい、長時間使うことがメインでしたよね。でも、現代の暮らしでは、火を使うことをあまり好ましく思わない人も増えています。なので、10分ほどで消える長さにしました。あとは、陶器の器に横に寝かせるタイプだと、上に蓋もできて、火が表に出ません。これは安全性という意味でも最近人気が出ています」
お香を求める人たちはコロナ禍を挟んで、じわじわ増えているようです。
「もともと、好きな人は好き、というものでしたが、ステイホームの体験から、目に見えないものを求める傾向は出てきた気がします。もともと、仏教とは深く結びついていたように、神聖なもの、空気を浄化したりというイメージも芽吹いてきたのかもしれません」
常設しておくならアロマディフューザーも良いですが、お香をたいて、自分のために特別な時間をつくるという意味合いがあるのかも。
火をつけるものとして、フレグランスキャンドルも、無印良品より発売されました。
「インテリアフレグランスオイルの香りをそのままキャンドルに置き換えた新商品を、11月に発売しました。蓋をつけることで、使わないときはホコリ防止になりますし、火がついた状態で蓋を閉めると酸素がなくなって火が消えるんですね。これはマニアックな話なんですが、息で吹いて消すと、芯が燃えすぎてしまって次使うときによくないんです」
そういえば、欧米の映画でろうそくの芯を手でつまんで消すシーンを見たことがありますが、あれは慣れないと火傷しそうですから、蓋を閉めるのは良さそうです。

さてチャプター2は「かおりをしる」。
日本における香りの歴史を知るコーナーです。
「日本香堂ホールディングス特別顧問であり、香文化研究家の稲坂良比呂さんに監修していただきました。『日本書紀』に595年、香木が淡路島にたどりついたのがお香の始まりとされているのですが、その時にたどり着いたことを知らされた聖徳太子がすでに香文化を知っていて『これは香木です』と答えたそうなんです。なので、稲坂さんのお話によると、それ以前、すでに日本に香文化があったのではないかとのことです」
『源氏物語』の話などもあり、非常に価値のある写真も展示されています。
「香の原料となったものは、中国やインドネシアでは漢方薬として当初は使われていたようです。それを日本では香りとして使うという独自の発展をしたんですね。とりわけ『源氏物語』に書かれているように、平安時代の貴族たちが自分の香りをつくるというオリジナリティを置いたことはすごく興味深いですね。『源氏物語』については、1月に稲坂さんにトークイベントでもお話しいただきました」
残念ながら、3月の他のワークショップも満席だとか。香りにまつわる歴史は、人と香りの深いつながり。興味は尽きません。

チャプター3は、いよいよタイトルにも込められている「かおりをきく」。
ガラスで仕切られた空間に足を踏み入れると、注意をしなければ感じられないくらいの、ほのかな香りに包み込まれます。暗い空間のなかには、氷が溶けてガラスの器に一雫ずつ落ちるインスタレーションが。
「水を張った器には香りを入れてあり、氷から溶けて落ちる雫が、波紋と一緒に香りを立ち上がらせます。空間を独立させて暗くしてもらって。普段は何もないガラス張りの部屋なので、少しシャットアウトしているんです」
これはこの場所に身を置いて、空間ごと味わうべきでしょう。言葉では語り尽くせない、香りと視覚が一体になる体験ができます。
ほのかな香りは何の香り、とは断定しづらい、いつまでもきいていたくなる香り。
このここだけの香りをつくったのは、日本香堂の調香師、堀田龍志さん。
こちらチャプター4では、その堀田さんの調香のプロセスが紹介されています。
いわば、堀田さんがこの香りにたどり着くまでのあたまのなかが覗けるというわけです。
「今回、この香りをつくるにあたって、良品計画のスタッフが無印良品のものづくり、ATLIER MUJIとはなんだろうということをワードとして出していったんです。それを、堀田さんがこの言葉に集約されるのではという5つをピックアップしてくださいました。
それが自然感、等身大、ジェンダーレス、素材感、生成(きなり)でした」
堀田さんはその言葉を香りで表現していくという作業に入りました。
「9点の素材となる香りを選び、展覧会のために4点試作していただきました。そのうちのひとつがインスタレーションの空間の香りなんですが、どれなのかは、ぜひご自身で当てに来ていただきたいですね。当てられる方は50%くらいです(笑)」
猪子さんはにこにこ笑って、この日は答えを教えてもらえずじまいでした。もう一度行かねば!

最後のコーナーはMUJI BOOKS。チャプター5「かおりをよむ」です。
「今回の展覧会のテーマとして『自分と向き合う』というのもあったんです。その香りと向き合うことは、自分と向き合うことに通じるのでは、と。それで、スタッフが自分と向き合うための本を選びました。向き合うと言っても、人それぞれ違うと思いますので、いろんな形があっていいと思うんですが」
選ばれた本には「なぜこの本を選んだのか」というスタッフからのメッセージも添えられています。
香りを可視化することは、珍しい試みでしょう。ここへ足を運び、体感することのすべてが新しく、生活と香りをより結びつけていきそう。
かおりをきく。それは、香りを心で感じること。その向き合い方が、その人の暮らしや生き方すらもほんの少しずつ変えていくきっかけになることでしょう。

公式サイト
https://atelier.muji.com/jp-ja/exhibition/251219/
photo by Yumi Saito
https://www.yumisaitophoto.com/
Text by Aya Mori