花市場には、日々、美しい花が並んでいます。しかし市場に並ぶための規格はとても厳しいのだそう。茎が短いとか、花が小さいといった理由で出荷する前に排除されてしまう規格外の花がある。流通の過程で破棄される花は、年間10億本と言われていわれています。ローランズファームは、障がい者の雇用も推進しつつ、規格外の花も生かす工夫をしている花の農園です。さまざまな人たちが、さまざまな花を愛でながら育てています。
横須賀市にある600坪もの広大な花畑。そこでは、障害と向き合う人たちが季節ごとにさまざまな花を育てています。今は、赤、黄色、ピンクなど色とりどりのダリア。そして夏に向かって、ひまわりがあふれるほど咲くといいます。
「試験的にかすみ草やスターチス、トルコキキョウ、デルフィニュームなどにもチャレンジしています」
土を耕したり、水を撒いたり、苗を植えたり。花を育てるにはいくつもの工程がありますが、化学的な殺虫剤などを撒かずに自然に育てているそうです。
「実験的に酢を薄めたもので葉を拭くというようなことも始めています。どうしても葉裏にアブラムシなどがつきますので、何か対策をしないと」
ここでは「花の時を薬で止める」こともしません。ところが化学的な薬を使わないことで、花は生き生きとし、結果的にもちも良くなるのだそう。
働いている人たちは、作業を厭う様子もなく、広々とした畑でゆったりと働いています。「こんにちは」と声をかけると「こんにちは」と、微笑みと挨拶が返ってきました。土の上の作業では、障害があることもわからない人たち。そういった人たちを雇用している理由を、代表の福寿満希さんはこんなふうに語ってくれました。
「もともと、私たちは普通の花屋さんでした。東京・原宿に店舗とアトリエをもっているんです。でも、廃棄される花が年間10億本もあるということは心の痛む話でした。一方で、私自身、特別支援学級の教員免許をもっていまして、障がいのある子どもたちのところへ実習に行ったんですね。私自身は、一生学生だったらいいのになあなんて暢気に考えていたのですが、彼ら彼女らは『働くのが夢』だと言うのです。ハッとしました。そこからです。そんな夢が叶うような社会がつくりたい。そんなことができる会社をつくりたい、と思ったんです」
2013年に会社を設立。2016年には、最初の障がい者雇用を実現しました。
「相談支援事業所などと連携し、業務を進める上でのコミュニケーションが取れることなどを確認し、業務を進める上で問題がないかを確かめて採用しています。例えば、音に敏感すぎる人はハサミをテーブルに置く音で体調が悪くなってしまう人もいます。いろんなタイプの精神障害があり、アップダウンが激しい人もいる。それぞれがもともともっている性格というのもあります。まずは本人と向き合いながら、『花が好き』かどうかということも大事にしています」。
雇用を増やすためには、ショップ展開だけではなく、花をビジネスにする必要がありました。
「今、ローランズ社全体では全体で100人ぐらいの人が働いていて、そのうち7割が障がいと向き合う人たちです。それだけの人に賃金を払っていくには、花が売れないといけません。おかげさまで、法人のお客様が多く、美容商材を扱う会社や、結婚式場など、年間契約をしてくださっているところがありまして。この10年間、ほとんどご紹介を中心に事業が広がってきました」
それは福寿さんとスタッフの人たちの純粋な気持ちと、弛まない努力があったからこそでしょう。
「東京には仕事が集まっていますし、人も集まっている。でも都市部でないところの仕事がなく、雇用率は低くなります。横須賀というこの拠点を活かせたのはありがたい。2023年からの3年間、休眠預金等活用制度を使った助成金をJANPIAから利用できていることは大きいです。3年後、自走できるようにという助成金なのですが、立ち上げ期間を経て、2026年からは自走できるよう準備しています」
福寿さんは36歳。年齢よりも若く見えますが、ビジネスへの考え方はシンプルでとてもしっかりされています。
「花の生産数が増えていけば、季節ごとに出荷できる。花の需要が確認できたお客様先へ、最初は市場仕入れのお花を届けますが、後に自社生産のお花に置き換えていく。若いメンバーもより増えてきましたし、とにかく、雇用が増えるということが私のモチベーション。なので、頑張ってお金を稼ぐ。働く仲間の真剣だったり夢中になっている姿を見て、仕事づくりだったり組織づくりも頑張ろうと思えます」
ローランズファームのコンセプトは「みんなみんなみんな咲け」。
「どんな種も花になるんです。人も、花のようにいろんな咲き方がある。必ず誰もが咲けることが、多くの人に伝わってほしいですね」
オフィスには、マリーゴールドがいくつもドライにして吊り下げられていました。
「ドライにすると活用できる、ということもあります。今、あるコスメ・メーカーさんの特定の店舗で、顧客の方へのギフトにしてもらっています」
乾いたマリーゴールドからは、日なたの香りがしました。撮影していた有美さんが「ただいま、っていう感じの香り」と、微笑みました。
ローランズファーム
https://farm.lorans.jp/
photo by Yumi Saito
http://www.yumisaitophoto.com/
Text by Aya Mori
一部写真提供