
近年、新宿の「東急歌舞伎町タワー」(2023年)、「2020年ドバイ国際博覧会日本館」(2021年)、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)「パナソニックグループパビリオン『ノモの国』」&「ウーマン ズパビリオン in collaboration with Cartier」(2025年)と、シンボリックでグローバルな建築物を立て続けに設計している永山祐子さん。
このほど、月刊誌『日経ウーマン』の「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2026」大賞に輝いた彼女に、現在進行中の驚くべきプランと、ものをつくる姿勢について語ってもらった。
穏やかな佇まいが印象的だが、その内側にあるのは建築家としての類稀な資質と情熱だ。
およそ20名のスタッフが働く永山祐子建築設計は、新宿御苑の紅葉を見下ろす立地にあった。
永山祐子さんは、現在、横浜市・瀬谷で開催される2027年国際園芸博覧会(GREEN x EXPO 2027)での株式会社東邦レオのパビリオン、2028年竣工予定のTOKYO TORCH Torch Towerなどのプロジェクトに参画している。
GREEN x EXPO 2027で驚くのは、建築資材のリユースの巧みさだ。ドバイ万博→大阪・関西万博→GREEN x EXPO 2027と、資材をリユースしながら、まったく違う建築物として表現する。まさにリユースというより、リボーン(re-born)なアイデアなのだ。
「リユースのアイディアはドバイの頃から持っていました。公募を経て日本館の設計者に選定されたのですが、最初の提案時から資材のリユースを前提に解体・再組み立てが可能な構造形式を考えていた。次の万博開催地が大阪に決まったとき、ドバイ万博日本館のファサードをリユースし、ドバイと大阪を繋げたいと考えました。SDGsという概念にもふさわしいですが『そういう話は毎回出るんだけど、実現は難しいんじゃないか』と言われました」
国から民間に所有権を渡すのも難しい。かなりの手順を踏まないと現実化しない。
「閉幕した大阪・関西万博の施設のその後も話題になっていますが、国の所有権を民間に移すというのは本当に難しい。目録をつくって、欲しい人に手を挙げてもらって、という手順を踏んで、公平性を担保しなくてはならないですし、基本的に次に受け取る人が全ての費用を負担します。さらに、万博パビリオンの場合、国の予算には解体までしか含まれていません。資材リユースのための解体、輸送、保管といった経費をすべて取得者が負わなければならないのです。つまり、取得する入札の費用に加えて、その後の費用もかかるんです。ドバイ万博日本館の資材リユースに関しては、自ら協力企業を探し、リユースのための丁寧な解体は大林組に、輸送と保管は物流会社・山九にご協力いただきました」
最初にドバイ万博の資材をつくったのは、ドイツ。ドイツからドバイへ、大阪、そして横浜へ。
「大阪から横浜への輸送は今までで一番近いですが。工場に運んで全部チェックして、曲がっていないか、次に使えるかどうかを確認し、必要に応じてリペアする。次の設計のためにナンバリングして、やっと輸送できます。パビリオンの建築は開催より一年前倒しになるので、来年には完成させなくてはなりません。私たちはだいたい、一年ぐらい世間の波よりズレているんですね」
つまり、大阪・関西万博の2つのパビリオンも去年の夏に引き渡し、始まる前に解体計画を検討、そして次のリユース先のGREEN x EXPO 2027へ向けて動き出していたということだ。
「大阪・関西万博が始まったときには、もう設計としてはGREEN x EXPO 2027の山場でした」
しかも、今回も彼女は自分で次の企業を見つけたのだった。
「Facebookを見ていて、東邦レオ株式会社の吉川稔社長が園芸博に出るというようなことを書かれていたんです。直談判してみる価値はあるかと思い、すぐにご連絡したら、本当にうまく話が進みました」
瞬時に総合的に判断し、行動する。可能性を見逃さない永山さんの眼力がすごい。
東邦レオは、緑化環境、空間づくりのイノベーター企業だ。パナソニックのときとはパビリオンのコンセプトも違うが、永山さんの建築作品の可能性と包容力はそれを次の形へとリボーンさせる。
「パナソニックのときは構造体にオーガンジーの布をかけたんですが、今回は、園芸博なので、その構造そのものを藤棚のようにして、植物を巻きつけていくベースとして使っていこうと思っています。今、何を巻き付けたらいいのかを検討していますが、一案としてはビールをつくるホップが面白いんじゃないかと。会期の後、そのホップでビールをつくる、とか」
緑の下で、さまざまなイベントも企画されていくという。