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    第9話 『未知のお見合い』

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【ここまでのあらすじ】

暗闇でご飯を食べるイベントで偶然知り合った女性誌編集長の鍵崎多美子(50代)、フラワーアーティストの内畠麻貴(40代)、レストランカフェでパティシエをする野添有紗(30代)、旅行代理店勤務の殿村未知(20代)。
世代が違いながらもなぜか通じ合うところを感じた4人は、月に1度は4人で会うことになった。
多美子はIT会社社長に恋をし、麻貴はピアニストの彼と同居を目指し、有紗はパートナーの前妻との子を引き取る決意をし。それぞれに新しい生活が始まろうとしているなか、未知に訪れる春は?


《1》

殿村未知は、旅行代理店の宣伝部にいる。

オフィスに電話の音は少なくなったが、年度末は空気感がいつもより気ぜわしい。

殿村未知は、この空気感と、楺井部長のとっちらかった指示が苦手であった。

おまけにこの時期、花粉症が重なる。

「殿村くん、新聞広告のあの件、どうなったかな」

「ああ、そうだ、殿村くん、星野リゾートの新施設の発表会の件なんだけどさ」

「殿村くん、部の送別会、どこにしようか」

3秒ごとに名前を呼ばれて、殿村未知は頭をぷるる、と振って、マスクをはがした。

「あの、部長、すみません。やるべきことから順番に指示していただけませんでしょうか」

「あ、すまん、すまん」

白いワイシャツのボタンがかろうじて止まっている、布袋さんのようなおなかをなでながら、楺井はパソコンの画面を見ながら謝った。こめかみにうっすら汗が滲み、食べログの画面をスクロールしている。

楺井は小太りのせいか若く見えるが、定年間近である。現場好きで、宴会を盛り上げるのが得意だが、管理職にはいささか不向きではあった。

未知は楺井の右側の席に座っている。そのせっかちなスクロールの気配すらうっとうしく思いながら、自分の仕事をさておき、まずはコンタクト販売に関する報告書のプリントアウトをすることにした。

「それはそうと、殿村くん、ちょっと話があるから、30分後に203に来てくれるかな」

「は、はい」

30分後!と、また未知は頭が沸騰しそうになる。どうしてこの人は私のスケジュールをいつもぐちゃぐちゃにするのだろう。今日はこれをやってあれをやって、と、未知が決めるスケジュールは、その通りにやれた試しがない。すべて楺井の突拍子もない指示出しのせいであった。

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