【ここまでのあらすじ】
暗闇でご飯を食べるイベントで偶然知り合った女性誌編集長の鍵崎多美子(50代)、フラワーアーティストの内畠麻貴(40代)、レストランカフェでパティシエをする野添有紗(30代)、旅行代理店勤務の殿村未知(20代)。
多美子はIT会社社長に恋をし、麻貴はピアニストの彼と同居を目指し、有紗はパートナーの前妻との子を引き取る決意をし、未知は上司から紹介されたお見合いをして、相手に意外なシンパシーを感じた。
久しぶりに顔を合わせた4人は何を語り合うのか。
《1》
ビストロ・ドゥ・ミニオンは、季節によってテーブルクロスの色が変わる。
夏場はブルーだ。いつも5月の陽光が眩しくなってくるのを見計らって一新する。だいたい、連休明けの行事だ。しかし、連休の最終日、久しぶりに多美子、麻貴、未知がやってくるとあって、有紗はブルーのテーブルクロスを広げた。
晴れ渡る五月晴れのような、スカイブルーだ。テーブルの上の小さなガラスの花器には、近所の人がくれたミモザを飾った。
今年の有紗は、神戸から引き取ってきた洋三の前妻との娘、莉奈の小学校の入学式もあり、4月は何をしていたのか記憶がないくらい忙しかった。
こうしてブルーのテーブルクロスを広げると、初夏が来たことを確認できた。
一番乗りは、未知だった。
「こんにちは。時間より早くて悪いかなと思ったんですけど、来ちゃいました。なんか有紗さん、今日、マダムっぽいです」
有紗は白いTシャツの上に生成りの麻のエプロンをしていた。相変わらずアクセサリーなどしない人だが、首筋の茶色い後毛がふわふわと揺れているだけで十分だった。
「あら。うれしい。みっちゃんも、なんだかちょっと大人っぽくなったみたいよ」
「29歳って急速に老けるんですよね」
未知は真顔で言った。お見合いの日と同じ、アイボリーのワンピースが似合っていただけなのに。
そこへ、麻貴がやってきた。白い紫陽花を抱えている。
「久しぶり〜。あ、これ、ブライダルの残りなんだけど」
「わあ、ありがとう!」
ブライダル、という言葉に有紗の表情がぱっと輝いた。麻貴はそれに気づかず、未知はおそるおそる言った。
「ブライダルに紫陽花? 紫陽花の花言葉って、心変わりじゃなかったでしたっけ」
麻貴はちょっとムッとした顔で言った。
「花言葉は寛容、よ。白はブライダルで人気なの」
「あ、すみません。知らなくて」
有紗は二人をさあさあ、と席に座らせた。そしてシャラン、と音のしたスマホをエプロンのポケットから出して見た。
「多美子さん、今、駅です、って」
「きっとまた100メートルくらい先からヒールがかつかついう音が聴こえるわよ」
麻貴が言うと、3人はさもありなんと笑った。