《2》
「あ〜。ごめん。走った走った」
扉を勢いよく開けて、多美子が飛び込んできたのは、それから5分後だった。
「タミー、その靴でよく走れましたよね」
まだ連休明けだというのに、ネイビーの麻のスリップドレスに、白いカーディガンを羽織った多美子の足元は、10センチはあろうかというウェッジソールのサンダルだった。
「ヒールじゃないから、これは大丈夫、意外と」
「はあ」
4人揃ったところで、有紗の料理が登場する。
生のマッシュルームとくるみのサラダ。いかのおだんごが入ったきゅうりの冷たいスープ。…
「なんかみっちゃんが一番変わった気がする」
多美子はきゅうりのスープの3口目で、にやりと笑った。
「あ、これ、タミーさんにアドバイスしてもらったワンピースなんです」
「で、お見合いどうだったの」
「一応、またお会いすることにはなりました」
「やったー」
サラダをもってきた有紗が小さな声で言うと、麻貴が未知を覗き込んで念を押した。
「あのさ、みっちゃん、わかってる?お見合いってさ、結婚する気がなかったら、すぐに断らないといけないんだよ。もう1回会うってことは、かなり前に進んじゃうんだよ」
「… そ、そうなんですか。なんか、私から断るのも失礼なんじゃないかと思って」
未知がちょっとうろたえると、多美子は冷静に言った。
「まあ、いいじゃん。みっちゃんがその気になってるんだから。3回まではOKじゃないの? 最悪、その気にならなかったら、断り方教えてあげるわよ」
「あ、ありがとうございます。お願いします」
「あら、もう断る気なの」
「そうじゃないんですけど…」
未知は自分の気持ちをどう言えばいいか、ちょっと考えた。
「彼とは、傷が似てるんです」
「傷?」
「心の傷です」
多美子はシャンパンを一口ぐいっと飲んだ。
「それは! いいかもしれないよ。ただ、それだけだと、傷の舐め合いで終わる」
「なる〜」
麻貴が頷いた。
皆それぞれに、近況を語り始めた。