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    第10話 『多美子の失恋』

《2》

「あ〜。ごめん。走った走った」

扉を勢いよく開けて、多美子が飛び込んできたのは、それから5分後だった。

「タミー、その靴でよく走れましたよね」

まだ連休明けだというのに、ネイビーの麻のスリップドレスに、白いカーディガンを羽織った多美子の足元は、10センチはあろうかというウェッジソールのサンダルだった。

「ヒールじゃないから、これは大丈夫、意外と」

「はあ」

4人揃ったところで、有紗の料理が登場する。

生のマッシュルームとくるみのサラダ。いかのおだんごが入ったきゅうりの冷たいスープ。…

「なんかみっちゃんが一番変わった気がする」

多美子はきゅうりのスープの3口目で、にやりと笑った。

「あ、これ、タミーさんにアドバイスしてもらったワンピースなんです」

「で、お見合いどうだったの」

「一応、またお会いすることにはなりました」

「やったー」

サラダをもってきた有紗が小さな声で言うと、麻貴が未知を覗き込んで念を押した。

「あのさ、みっちゃん、わかってる?お見合いってさ、結婚する気がなかったら、すぐに断らないといけないんだよ。もう1回会うってことは、かなり前に進んじゃうんだよ」

「… そ、そうなんですか。なんか、私から断るのも失礼なんじゃないかと思って」

未知がちょっとうろたえると、多美子は冷静に言った。

「まあ、いいじゃん。みっちゃんがその気になってるんだから。3回まではOKじゃないの? 最悪、その気にならなかったら、断り方教えてあげるわよ」

「あ、ありがとうございます。お願いします」

「あら、もう断る気なの」

「そうじゃないんですけど…」

未知は自分の気持ちをどう言えばいいか、ちょっと考えた。

「彼とは、傷が似てるんです」

「傷?」

「心の傷です」

多美子はシャンパンを一口ぐいっと飲んだ。

「それは! いいかもしれないよ。ただ、それだけだと、傷の舐め合いで終わる」

「なる〜」

麻貴が頷いた。

皆それぞれに、近況を語り始めた。

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