【ここまでのあらすじ】
あるイベントで偶然、同じテーブルになった多美子、麻貴、有紗、未知。世代を超えて仲良くなった4人はそれぞれの恋や仕事の悩みを月1度集まって話し合っている。多美子は恋愛未満ばかりで落ちつかず、麻貴は年下のピアニストとの同棲を間近にし、未知はまさかのお見合いで出会った鉄オタの彼氏とまんざらでもない。そして有紗は不倫の果てに結婚した男性の連れ子を育てることに。…
《1》
「どうしたんですか、タミーさん」
ジントニックを煽って呆然としている多美子に、未知は恐る恐る声をかけた。いつもは人の顔色などあまり見ない未知にしては、慎重な対応だった。それくらい、多美子の表情は絶望的に暗かった。
「…いやまあ、あの、ちょっとトラブルがあってね」
多美子はやっとのことで答えた。この3人の前でまだ自分の恋が終わったとは言いたくなかった。さっき、始まりそうとあんなに盛り上がったばかりだったし、
何よりも、多美子の心のなかにまだ岸場鷲士は爽やかな笑顔で存在していたからだ。
「まあ、今日は楽しみましょう。みんなの話を聞きたいわ。まず未知ちゃんのお見合いはまあまあうまくいってる、と。じゃ、麻貴はどうなの」
矛先を向けられて、麻貴は一瞬、口を真一文字に結んだが、意を決したように言った。
「私は来週、彼にプロポーズするつもり」
えーっ、ともおーっともつかない声が全員から上がった。
「女から。それもいいよね」
多美子は知ったかぶりに言った。自分では実はそんな勇気はまったくないが。
「どこで言うんですか」
未知がまぶしそうな目で言った。
「どこで…って」
麻貴は口ごもった。こうして公言してしまうことで、自分に勢いをつけただけなのかもしれなかった。
そのとき、ガタンと、店のドアが開いた。
「こんにちは」
そこには、ジャージ姿の大柄な男性と、小一くらいの女の子が立っていた。女の子は黄色いのリボンとひまわりのついた麦わら帽子をかぶっている。