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    第15話 『有紗の勇気』

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【ここまでのあらすじ】

有紗は最初はやむを得ぬ不倫関係にあった洋三と神戸から上京し、ビストロを開いて忙しく働いていた。しかし洋三の妻が浮気相手と結婚することになり、育児放棄していた娘の莉奈を引き取ることに。いきなり莉奈の母親になった有紗は自身も洋三との子どもを宿していることに気づき、混乱する。


《1》

有紗は、もやもやとした不安を抱えていた。
しかし、おなかのなかにいるのは、不安ではなく、希望のはずだった。
6ヶ月を過ぎると途端に、おなかは前に出っぱってきた。
有紗は日に日に大きくなるお腹を抱えて、レストランの仕事と莉奈の子育て、家事をこなすようになっていた。
が、さすがに重いものをもったりはできない。
夫の洋三は、レストランには新しく人を入れることを決めた。
誰を入れるか、二人はほぼ心に決めていた。
渡瀬千裕。24歳になるその助っ人は、もともと近所に住む客だったのだ。
ふっくらしていて、よく食べた。人懐っこい彼女は、客としてきているときからよく話をした。なんでも長野の佐久の出身で、いずれは故郷に帰ってカフェをやりたいのだという。

「うちの近所に日本一美味しいシュークリームを売ってる店があって、そこに負けないのを作りたくてぇ、東京の製菓学校に来たんです」

面接のときも、千裕はそんな話をした。

「そこのは、うちのシュークリームより美味しいの」

洋三はあからさまにむっとして顎をあげたが、有紗はくすくすと苦笑した。
千裕は悪びれず、はい、と言った。

「ほんとに美味しいです。でも、ここのシュークリームも同じぐらい美味しいです。だから私、通ってました」

千裕の正直さに、二人は採用を決めた。フランス料理はビストロとはいえ、そんなに利ざやが大きくはない。人を一人雇えば売り上げをもっとあげなければならない。そこで、シュークリームやクッキーなどの菓子類も、売ることにした。

有紗は千裕に言った。

「千裕さん、もちろん接客もたいへんだけれど、お菓子のアイデアもぜひお願いしますね」

「ほんとですか。ありがとうございます。がんばります」

千裕は冬だというのに額にうっすら汗をにじませながら、にっこり頷いた。

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