《2》
洋三の前妻との娘、莉奈は相変わらずあまりしゃべらなかったが、暗いというわけではなかった。しかし、あれこれと彼女を気遣う有紗に、心を開いているというふうでもなかった。
莉奈はあまり食べない子だった。給食を嫌がり、洋三の作るものだけは食べた。
有紗はそれを見るとますます不安になった。でもその不安を、多美子や麻貴や未知…あの女友達たちに話したところで、どうしようもないような気もしていた。
実はもうひとつ、ずっと悩んでいたことがあった。それは、駆け落ち同然に上京してしまった有紗にとって、2年以上も音信普通の両親のことだった。
結婚したことをすぐ報告しようと思っていたが、洋三の離婚と自分との入籍、莉奈の出現と、まるでジェットコースターに乗ったようにいろんなことが押し寄せてきて、そのままになってしまっていたのだった。
渡瀬千裕がやってきて少し店から手が離れたある朝、有紗は思い切って実家に電話をした。
「… もしもし、あ、おかあさん」
「有紗! 有紗やないの。元気にしとうか。今、どこに居とう?」
母親は心底驚いたようだった。そして、音信不通だった有紗を責めなかった。
「ごめんね、おかあさん、私、今、東京で元気にしとう。洋三さんと籍も入れて、で、それで… 今、7ヶ月なんよ」
「へーっ」
息をのみながらも喜んでいるという気配が、一瞬、受話器の向こうから伝わってきた。返ってきたのは思いもしない言葉だった。
「ちゃんと腹帯しとうか」
「は、はらおび… 」
「そうや。腹帯。ほんま、もう、そんなことも知らんやろ。わかった。おかあさん、明日、中山さんに行って、腹帯もろてきて、もっていくから。どこにおるの」
「え」
突然、母親に来ると言われて、有紗はしどろもどろにスマホの電話番号を教え、
東京駅に迎えに行く約束をした。
そして、電話を切って気づいた。
莉奈のことを、説明できなかったことに。