《3》
週末、有紗は品川駅で、母を探した。有紗は3人娘の真ん中で、母の30歳のときの子だった。
新幹線の中央出口からちゃんと出てくるだろうか。間違って高輪口に行ったりはしないだろうか。中央口と言ったはずだが、と、有紗はおなかをおさえながら、きょろきょろと見渡した。
「おかあさん、おかあさーん」
1階中央口の改札の向こうで、やはりきょろきょろと周りを見ながら、グレーのコートで小さな黒いキャリーバッグを転がす母親が見えた。
老けたな、と有紗はその姿にちょっと泣きそうになった。東京で見る67歳より、ちょっと老けて見えた。
母親は有紗を見つけると、笑って改札を指差し、ここを出るのね、と指で合図した。
「そうそう」
2年半ぶりくらいに会った二人は、連れ立って歩き始めた。
「新幹線、混んどう?」
「混んどった。この頃は外人さんだらけやな… おなか、大きいな」
「うん」
「どっちか聞いたんか」
「男の子みたい。生まれてみたら違ってた、ってこともあるらしいけど」
「そら、よかった」
有紗は、いつ謝ろうかとタイミングを見計らっていた。黙って上京してしまったこと。黙って結婚してしまったこと。
もうひとつ、謝ることではないが、莉奈を引き取ったという事実も話すべきだった。