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    第17話 『未知のマリッジブルー』

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【ここまでのあらすじ】

(詳しくは4、9、13話をお読みください。)
高校時代、好きだった人が交通事故で突然この世を去ってから、未知は恋に踏み込めずにいた。鉄道好きが高じて旅行代理店で働いているが、上司のちぐはぐな指示に振り回される日々。そんなある日、まさかの場所で高井専務に気に入られ、息子で靴職人の希望(のぞみ)とお見合いした。無口でぱっとしない第一印象だったが、鎌倉の工房で、希望は未知に靴を作ると約束する。


《1》

鎌倉・材木座の工房で、希望の作りかけの青い靴に足を入れた一瞬から、未知の人生は一変した。
思いもよらず、彼のことが大好きになった。恋はするものではなく、落ちるもの。まさにその通りだった。

あんなにLINE不精だった希望から2日に1度は短いメッセージが来るようになった。言葉が思いつかないときは、できかけの靴の写真や、窓越しの海の写真が送られてきた。

「今日は台風一過で、いい天気です」

真っ青な海を見ると、未知には潮風の匂いまでした。

あれから二人は週に一度は会うようになった。二人が決める店は、ちょっとした居酒屋や、焼き鳥屋だった。未知は飾らないそんな食事に心底ほっとできた。
高井専務に出会ったらしい、あの車両の缶詰バーにも行った。

9月の最初の土曜日のことだった。
その日はこんなメールが来た。

「東京駅日本橋口で、18時に待ち合わせましょう」

黒塀横丁で焼き鳥かな、と未知は想像した。
でも一応「いくら居酒屋でも焼き鳥屋でも、デートのときはきれいにしていくように」と多美子に言われていたので、セールで買った薄いピンク色のワンピースを選んだ。
そしてクロゼットに並ぶ服を見ながら、たったの2〜3ヶ月で着たことのない色のワンピースが2〜3枚下がっているのが可笑しくてひとり笑いした。

予約されていたのは新しいホテルの27階にあるフレンチ・レストランだった。
未知は密かに、多美子のアドバイスに感謝した。

店の真ん中に、鉄道と街を模したジオラマがあった。希望が指差す。

「スカイツリー。こっちは浅草寺かな」
「水上バスまで走ってる!」

未知は子どものようにはしゃいでいたが、希望は相変わらず落ち着いてにこにこしていた。でも、その目を見ればやはり鉄道が好きなんだなという光に満ちていた。

「お客様、そろそろお席へご案内しましょうか」

ギャルソンがそう言うまで、二人はご飯を食べにきたのすら忘れそうだった。
南側の奥の席は特等席だった。
上から見おろす東京駅は、まるでさっきのジオラマのように可愛らしくて、列車が動く様が飽きなかった。
こっちに座ったほうがいいとも言わず、希望は景色の見えるほうの席を未知に譲った。

「ありがとう」

未知が礼を言うと、希望はちょっと緊張した顔で頷いた。

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