《2》
いつになく豪華なコース料理を食べるのは、ただ事ではないのかもしれない、と、未知はだんだんと思った。いつにも増して、希望は無口になった。
お皿の料理をかなり残したものもあった。
もともと少食な二人には、コース料理は重すぎた。
ひょっとして、と、未知は二つの結末を自分の中に用意した。
ひとつは、プロポーズ。もう一つは、これが最後なのかと。
未知はどちらも怖かった。幸せになる勇気もなかったし、別れてしまうのも寂しかった。
沈黙にたまりかねて、デザートが終わる頃に「お化粧室へ行ってきます」と立ち上がった。
化粧室はわりと遠くて、助かったと思った。そしてこのまま自分がここから消えてしまいたい気持ちにもなった。
どうか、このまま。うん、このままが一番いい、と未知は思っていた。
化粧室の鏡のなかの自分は、困った顔をしていた。ポーチのジッパーを開け、グロスルージュをひと塗りする手が震えていた。
席に戻った未知の前には、希望が額に汗をにじませて背筋を伸ばして座っていた。
テーブルには、未知のワンピースより少しだけ濃いピンク色のばらの大きなブーケが、優しい香りを漂わせていた。
「あの」
「はい」
「僕と結婚してください」
「…」
そっちだった。と、幸は半分嬉しいような、半分どうしていいかわからないような気持ちになった。
しかしここまで用意してきた希望の気持ちにはありがとうの気持ちでいっぱいになった。
「ありがとうございます」
「よかった」
希望は嬉しそうにブーケを幸に手渡した。途端に、おめでとうございます、と、現れたソムリエが、シャンパンをもってきた。
未知は複雑な気持ちをうまく説明できないまま、ばらのブーケを抱いていた。
「お写真、撮られますか」
二人は窓際に立って、記念の1枚になった。
緊張がほどけて疲れた笑いのようになっている希望と、苦笑いをしているような未知が写っていた。