【ここまでのあらすじ】
詳しくは3、8、12、16、20話をお読みください。
これまでのあらすじ
麻貴は41歳のフラワーアーティスト。恋人で7歳年下のピアニスト、篠原翔平が若い女性と連れ立って飲みに来たのに遭遇してしまった麻貴は、その相手とのことを確かめることもできず、距離をとってしまった。その後、多美子にWEBのコラムを頼まれて書いてみたり、未知の結婚式の仕度を手伝ったりしながらも、どこか心に虚しさを抱えている。
《1》
大晦日。麻貴の店は、昨日の30日が仕事納めだった。
クリスマスイブの夜のことを思い出す。ちょっと思い出し笑いをし、ちょっとせつなくなった。
未知は婚約指輪をもらい、その隣のテーブルで、多美子の待ち人は来なかったようだった。店が終わって遅くに麻貴が顔を出すと、サンタクロースになった翔太と多美子が肩を組んで、下手くそなホワイトクリスマスを歌い、みんなで浴びるほどシャンパンを飲んでいた。
あれから、年末までまた働き通しに働いた。
お正月用のリースは飛ぶように売れた。どちらかといえば、この頃はクリスマスよりお正月のお花に力を入れる人が増えているのだろうか。
ともあれ今年もこの1日で終わってしまう。麻貴は大晦日が嫌いだった。大晦日が来たら、42歳になってしまうからだ。
一人暮らしのドアにも自分でこしらえたお正月ふうのリースをつけた。紅白の水引で輪を作り、松と南天と水仙をあしらった。
水仙という花は、地味だけれどとてもいい香りがする。麻貴はとても好きな花だったが、和のイメージがあるので、普段はあまり使わなかった。
「お正月だけ来い」
そうひとり言をいって、鍵をかけた。エントランスから外に出ると、年の瀬も押しせまった街の風が薄いモスグリーンのダウンコートをあっという間に冷たくした。
自然とデパ地下を目指していた。適当に好きな食べ物だけ買おう。2日からは実家に戻るのだもの。こんなことなら、大晦日から帰るって言ってしまえばよかったかな。
しかし、麻貴は大晦日の誕生日をことさら親の前で強調したくなかったのだった。40歳を過ぎた頃から、もはや独身であることを親も何も言わなくなったが、篠原翔平との結婚をなんとなく母親にだけは匂わせていただけに、辛かった。
コロン、という音でメールが届いた。
母からだった。