バラにはもともと、青い花に含まれる色素を合成する能力がありません。ですから、自然界に青いバラは存在しませんでした。古来、神話のなかに奇跡の花として登場したり、英語で「Blue rose」といえば「ありえない話」を示していたというほどです。
しかし、サントリーは長年の研究により、奇跡と言われる青いバラ「Applause」(アプローズ、花言葉は「夢 かなう」)を開発しました。
この青いバラは普通のバラにはない独特の気品ある香りをもっています。
1月26日、この青いバラの香りが『Blue Rose』というお線香として、日本香堂の専門店でデビューします。
今回はまず、サントリー ワールド リサーチセンターにお邪魔し、青いバラの開発に携わった田中良和上席研究員と中村典子研究員に、静かな情熱に満ちた研究過程を伺いました。
世の中には不可能と呼ばれることを可能にする人たちがいます。
「青いバラを咲かせること」は、まさにそんな研究でした。
サントリーグローバルイノベーションセンターの田中良和上席研究員は、最初にこのプロジェクトが始まった頃の話からしてくださいました。
「サントリーは1989年に”サフィニア”という花苗を発売しました。従来の園芸品種のペチュニアに南米の原種を掛け合わせて、花が多く長く咲くように品種改良したもので、今も人気があります。しかし、花のビジネスをするにあたって、やはり画期的な切り花が必要と言われていました。ちょうどその頃、単なる品種改良ではなく、遺伝子組み換えという技術が花の世界でもできることになり、青いバラは世界中で研究され始めていました。オーストラリアの会社から一緒にやりませんかという売り込みがあり、1990年にプロジェクトがスタートしたのです」(田中さん)
しかし、なぜ青いバラはそれまで存在しなかったのでしょうか。そこにはバラという花の宿命のようなものがありました。
「バラ属は4亜属に分けられていますが、中国にはまだ新種もあると思われていて、種的には変種、品種など合わせ150〜200種存在するようです。そのうち日本には約12種3変種が自生していました。古くは万葉集に詠まれているウマラはノイバラのことです。ところがそんなにたくさんの種があり、交雑されて現在は1万種類を超えているのに、花の色の成分に関しては他の植物に比べてバリエーションがないのです。なぜ青いバラがなかったのかというと、そもそも青い花に含まれる色素や青い花を咲かせる条件がなかったのです。鍵となるのは、多くの青い花に含まれているデルフィニジンという色素でした」(中村さん)
では青い花の色素を合成する遺伝子を入れれば青いバラが咲くのではないか。研究室で、実験が始まりました。青い色素を合成する遺伝子は最初はペチュニアから得ました。
「ただ、バラの細胞にペチュニアの遺伝子を導入して、その細胞をもとのバラに戻すというシステムを作るのが難しいところでした。それに、試行錯誤の期間が長い。酵母の研究なら1週間で結果が出るのに、バラは結果がわかるのに1年かかりますから」(田中さん)