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    平野奈緒美さん(調香師)

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 23年もの間、日本を代表する香料会社のフレグランス研究所で調香師を務め、さらに10年間、同研究所でマネージメントに携わってきた平野奈緒美さん。一昨年、日本香堂の調香師となり、花風プラチナのお線香やKITOWAのバスエッセンスや香十の香水など、日本的な香料原料を生かした繊細かつ斬新な香りの開発を担当しています。日本では珍しい調香師という職業を目指された原点、これからの香りづくりへの想いを語っていただきました。

《1》「サンタル」の香りに石鹸を見る目が変わるくらいの衝撃を受けた

 日本ではまだそんなにたくさんは存在しない調香師の一人、平野奈緒美さんは、2023年12月に『香りのチカラ』(笠間書院)という著書を上梓されました。

「前職を退社する直前に出版社からお話をいただき、一般の方に向けて、前職の卒業論文のつもりで書いてみました。香水、香りを創る調香師、香料、またその原料となる植物、嗅覚と匂いが心身に与える影響など、香りにまつわる内容をできるだけわかりやすくお伝えしたい。香りの魅力と香りの力に気づいていただきたいと、願いを込めて書きました」

 『香りのチカラ』は、まさに香りにまつわるさまざまな要素を網羅した一冊。これを読めば、香りを感じることの大切さ、豊かさを思い起こせます。
 ある章では、調香師の仕事についても詳しく記されています。
 平野さんという人が、どのように調香師になっていったのか、その道筋を辿ることで、どうやったら調香師になれるのかのヒントもありそうです。
 さて平野さんはどんなふうに香りを職業にすると決めたのでしょうか。

「子どもの頃から、香りに興味があったようで、きょうだいには『なんでも嗅ぐよね』と言われていました。12歳ごろに、家にフランスのロジェ・ガレ社のフレグランスソープのセットをいただいたんですね。丁寧に円形に畳まれたペーパー越しにも香りがして、特に『サンタル』という名前のついたソープを嗅いだとき、これまで嗅いだことのないクリーミーな甘さと深みのある落ち着いた香りに心を動かされました。これまでの石鹸というのものを見る目が変わるくらいに。それが私とフレグランスの出会いでした」

 『サンタル』とは、サンダルウッド、つまり白檀のフランス語名だと、彼女は、後年、知ることになりました。

「その後、好きなもの探しをしながら、手に職をつけることを考えたとき、ファッションやインテリアなどにも興味はありましたが、香りを創る人になりたいと思ったのです。それは、植物にせよ、香水にせよ、香りと結びついている思い出は、その場の情景や色、感情も含めて細部まで記憶に残る。嗅いだときに気持ちが安らいだり、幸せを感じたりするという、香りの不思議なチカラに魅せられてのことだったのでしょう。クリエーションの世界にも魅力を感じていたので、自然と香りを創ることに繋がったたのだと思います」。

《2》とにかくフランスへ。まず語学を身につけ、調香の学校へ

 香りを創る人になりたい。そう志した平野さんは、すぐに行動します。時代は1980年代半ば。バブルの風が吹く少し前のことでした。

「ネットなどない時代ですから。まずアメリカを調べたら、個人で入れそうなところがなかった。香水の本場であるフランスには何か情報があるはず、と、フランス大使館に聞きに行きました。そこで経済部に、パンフレットがあったのが”ISIPCA(イジプカ)”という香料の専門学校のものでした。1枚だけしかなくて、これだけではわからない。日本にもあればなあと探してみたら、香りの教室のようなところはありましたが、学校ではありません。そこでは香料原料のレクチャーもやっていて、天秤で香料を量って調合するようなこともしました。そういう香料を専門に扱う会社があって、化粧品会社にいるよりも、香料会社にいる人が香りを創り出しているんだと知りました。でも、香料会社の研究所ってほとんど理系の人が集まっているんです。私は文系でしたし。やっぱり香水の本場であるフランスにも興味がある。ISIPCAが一般人を受け入れていることもわかり、そこで、留学したいと両親を説得しました」

 本気で行動した平野さんは、まず語学を身につけることだと思いました。

「それでアテネフランスに通って、自分で現地の学校に通えるくらいのフランス語をスキルを身につけなきゃと。とにかく語学のために留学という形をとって渡仏しました。ソルボンヌ大学の外国人向けコースに入ってみた後、天然香料の会社はグラースに多いので、様子を見るためにニースの大学の語学コースでフランス語を学んだり。そしてISIPCAへの入学準備を始めました」

 「どうしてもこの道で生きていくんだ」という強い想いは、彼女の元に必要な情報や人脈を集めていきます。

「日本の高砂香料という会社がフランスに研究所をもっていることがわかり、そこにいる方を紹介してもらって、その後、ISIPCAのカリキュラムの中で研修することになったり。その前にシナロームという現地の香料会社で2ヶ月ほど研修をさせてもらえました。フランスってお友達関係で繋がっていくんですよね。一般的に考えて、日本からポッとやって来た人にそんなの無理でしょうということが『誰々さんの紹介だからちょっとぐらいは』で叶っていった。で、たまたまそこにIPSICA出身の若い女性パフューマーがいて、学校に入るんだったら、こういう勉強をしておくといいとか教えてもらえたんです」

 なんと渡仏2年目にして、平野さんは念願のISIPCAに入学できたのでした。

「フランス語は完璧ではなかったけれど、香りという媒体があるので、なんとなく通じちゃうんですよ。400種類ほどある香料原料や香水の香りを記憶しつつ、フローラル、シトラス、フゼア、ウッディなど、さまざまな香りのタイプの構成を調合しながら学びます。香りの分類や言葉での表現も次第に身についたようです」

 香りを嗅ぎ取る繊細さや能力が、平野さんの言語になっていったということなのかもしれません。彼女はパフューマリーコースを修了し、日本の高砂香料工業株式会社に入社しました。

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