平野奈緒美さん（調香師）｜バックグラウンド・インタビュー「香りを紡ぐ」｜フレグラボ

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1. 特集
香りを紡ぐ人びと
平野奈緒美さん（調香師）

《３》更なる香りの形へのチャレンジを

　香料会社時代は、23年間、調香師として務められた平野さん。主にパーソナルケア製品の香りを創られていたそう。

「シャンプーは、洗髪時の爽やかさが大事。アップルやペアなど瑞々しいフルーティがポイントになります。一方で、コンディショナーは同じような香調でもムスクやアンバーなどの重めの香りを加えて残り香を楽しんでもらえるようにしていましたね」

　日本香堂に移籍されてからは、お線香、お香製品のほか、ルームフレグランス製品、香水の香り創りも担当しています。

「香りには火をつけて楽しむお香という形もありますし、新しい提供の仕方もあると思います。まずは日本ならではの和の香りを探究できるのが楽しみです。日本香堂としてのアプローチも変わっていくでしょうから、それに沿うように。KITOWA、香十のフレグランスにも関わらせてもらいました。香料会社とのやり取りのなかで、例えばシトラスだったら、オレンジよりグレープフルーツだね、というように細かいことを話し合いながら作っていきます。お香はまだ自分の処方では商品になっていませんが、調香の研究は始めています。香原料というのがあって、沈香粉とか白檀粉とか、粉にしたものを香料に合わせていく。香原料だけでもひとつひとつに香りの特徴があって、それが混ざっていくとまた違う世界がある。そのマッチングをお香の担当者の方と一緒に作り上げていく。それはまた奥深く、趣のある仕事だと楽しみです。香りについて、また新しいことを一から学べるのは、本当に幸せなことだなと思うんです」。

《４》ずっとローズ系が好き

　フランスに学び、また世界中の情報を取捨選択してきた平野さんが、今、個人的に選ぶのはどんな香りでしょう。

「昔はシプレーとかアンバー系が多かったですね。グレのカボシャールとか、ジバンシーⅢ（トロワ）とか。かなり渋めのもの好きでした。今よく使うのは、シャネルのベージュです。あとは昼、夜とシーンで考えます。仕事中はつけられないので、ほぼ週末になってしまったりするんですが。ただ花はずっとローズ系が好きです。自分で育てたりもしていますし」

　著書にも「祖母の庭の花々や熟したイチヂクの香りを嗅ぐことは、子ども心にも楽しみであった」とあります。花々はさておき「熟したイチヂクのかおり」にまで敏感に嗅覚を働かす人はなかなか少ないでしょう。平野さんには天性の嗅覚もあったのかもしれません。

「1970〜1990年代は、一つ一つの香水が印象的で、強い個性がありましたね。今みたいに大量にいろんな商品が出てくることはなかったですが。マーケットの操作や嗜好性調査が入って『これがいいよ』という方へみんなが行っちゃったり。今はみんなウードが多いですけど。そういうものづくりの傾向は香水に限らずなのかもしれませんが」

　平野さんが思うのは、もっとじっくり取り組むものづくり。

「いろんな香調が出尽くしたとは言われていますが、もしかしたら、もっと時間をかけてじっくり創ることが大事なのではないでしょうか。スピード感重視になると、どうしても新しさは出ないです。人の心の琴線に触れる、何か引っかかるよね、という香りをつくりたいと思います」。