アッコちゃんのコンパクトをもっていた時代、私には近所に同い年の薫ちゃんという友達がいた。
薫ちゃんのお父さんは、大阪の一流ホテルで働くパティシエだった。
家は普通の平屋建てで、暮らしは私たちと変わらないように見えたが、彼女の家には本当に珍しい食べ物やお菓子があった。
彼女の誕生日パーティーに行ったときのことだ。
テーブルの真ん中に真っ白い生クリームでデコレーションしたケーキがあった。
いちごは載っていない。地味なケーキだと思った。
ところが、彼女のお父さんが、そのケーキにブランデーをかけ、火をつけて、フランベしたのである。
青い火が立ち上り、なんとも言えない、洋酒の大人の香りが漂った。
「うわああ」
私はぽかんと口を開け、青い火に包まれたその炎のケーキを見守った。
「か、火事にならへん?」
私がそう言うと、薫ちゃんは「ならへんよ」と大人っぽく言った。
優しい顔の彼女のお父さんもお母さんも、ニコニコ笑っていた。
私は、この家のお父さんとお母さんは、魔法使いに近い、と思った。
だから薫ちゃんはサリーちゃんに近くて、私よりずっとずっと偉いような気がして、嬉しいような、ここにいていいのかわからないような、不思議な気持ちになった。
帰ってから、母親にその話をすると「へえ、すごいケーキを見せてもらったな。おかあさんも見たかったわ」と言った。
ずっと大人になって、27歳のとき、東京の帝国ホテルで披露宴をさせてもらった。そのとき、私と新郎にはサプライズで、ホテルの人が「アイスクリームケーキのダンス」という、この青い炎をのフランベがテーブル分入場するという、パフォーマンスをしてくれた。
私はなんとも言えない思いで、そのケーキのダンスに、立ち上がるほど驚いた。
あれもこれも、今思えば魔法だった。
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photo Keita Haginiwa
Hair&Make Takako Moteyama