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その10「本の背中を見て育て」
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  • その10「本の背中を見て育て」

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●なんでも「過ぎる」父

 物心ついた頃、日曜日の夜はだいたい家族で外食と決まっていた。
 千林商店街とその付近のどこかで、お好み焼きか、中華を食べるのである。
 店にはいくつかバリエーションがあったが、さほど何が違うということもなく、どうあがいても中華かお好み焼きかの2大チョイスに変わりはなかった。

 お好み焼き屋には「風月」と「おきくさん」と「扇屋」の3軒があった。
 「おきくさん」は作曲家の服部良一さんのお姉さんがやっていて、店に服部さんのサインがあったが、そのことを店主に尋ねる人は誰もいなかった。
 私も本当なのかと思ったが、店主の顔は服部良一さんを女子にしたようであったので、どうやら本当だったのだろう。
 そこの豚玉は分厚い豚ロースが敷かれ、とても美味しかったが、子どもにはかみきれず、食べづらかった気もする。
 もうひとつの「扇屋」は、広島焼きで、父はここのお好み焼きを「芸術的だ」と気に入っていたが、母親はあまりその味を好まなかった。
 そこで必然的に「風月」が多くなった。
 「風月」のお好み焼きは、キャベツを粗みじん切りくらいにしてあり、豚肉も細かく切ってあるのが特徴だ。
 店の人は甘めのソースを塗って花かつおを散らし「あとはお願いします」と、行ってしまう。客はテーブルの脇の青のりと「どろ」と呼ばれる辛いソースと、味の素などを自由にかけて食べるシステムだ。
 父はすべてをかけ過ぎた。
 弟と私はそれが嫌で、食べる前にいつもちょっと重たい気分になった。
 その上、父は食べるときに「こぼすな」とか「口の中に食べ物を入れてものを言うな」とか「大人しく待て」とか、本当にうるさかった。
 しかし、風月のお好み焼きのソースの焦げた香りは、そんなすべての重たい気持ちを一新してしまうほどのパワーをもっていたのである。

 お好み焼きを食べ、その後、〆の焼きそばも頼む。「風月」の焼きそばの麺は太くてしこしこしていて、ソースをこれでもかとからめる。
 父はそこにも青のりと赤い生姜を大量にかけ、嬉しそうに食べるのだった。

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