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その29「大阪の盆、東京の盆」
    1. エッセイ
  • その29「大阪の盆、東京の盆」

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●時期も水引も違うお盆

 西から東へやってきて30年になる。正確に言えば、大阪市旭区から東京都世田谷区へ。その後、港区へ移り住んで、ここ1年半ほどは横浜市にいる。
 とにかく、上京して最初の3年くらいは、暮らしのなかのそこここに異文化が見つかった。
 まず驚いたのが、甘い卵焼きだった。
 分厚い卵焼きといえば「だし巻き」と決まっている大阪育ちの人間の舌に、それはたいそう雑駁で不思議なものに思えた。今はもう、それはそれと楽しめるようになったが。
 他にも食の違いは色々あった。蕎麦の真っ黒でしょっぱいお出汁。
 蕎麦の食べ方ひとつにしても、驚いた。少しつまみを食べて、お酒を飲み、最後に蕎麦で〆る。当時の大阪には蕎麦屋はあったものの、そういう江戸風な店は少なかった。初めてそういう蕎麦屋に入ったのは、神田の藪蕎麦だったと思う。落語の世界の中に入ってしまったような、芝居のワンシーンにいるような楽しさがあった。
 どちらかといえば、大阪は「うどん」の文化だ。そのうどんも、讃岐うどんのようにシコシコした腰はなく、柔らかめでもっちりした麺なのである。そして人が集まれば「うどんすき」を食べる。海老、鶏肉、野菜、湯葉巻き、なんてものを鰹と昆布で取って薄口醤油でほんのり色付けた出汁に入れながら食べる。〆にうどんを入れるのではなく、最初からちょいちょい入れて食べる。
 子どもの頃の大阪にはしゃぶしゃぶはあまりなかった。どちらかといえば、すき焼き。割下ではなく、ガツンと砂糖、酒、醤油で牛肉をどっさり食べる、すき焼きである。東京ではどちらかというと、しゃぶしゃぶの方が人気があるように感じる。
 いろんな違いがあるなかで、風習で全く違うと驚いたのが、お盆だった。
 だいたい、時期が違う。
 大阪のお盆は8月13〜15日である。しかし東京は7月13〜15日なのである。
 これはもう、早速にしくじった。

 デパートへ8月初旬にお供物を手配しようとした私は、店員さんの困った顔を見ることになった。

「お客様、お盆は終わっております」

「え」

「7月の半ばでございます」

「そんなことはないです。大阪は8月ですよ」

 そんなやり取りの末、こうお願いした。

「御供、というのし紙でお願いできますか。苗字を入れてください」

「承知しました」

  別の店員さんが少し奥で名入れをし、持ってきた。

「こちらでよろしいですか」

「え」

  私はまた驚いた。その紙には黒白の水引が印刷してあったからである。

「あの、これじゃないです。黄色と白のはないですか」

「は」

 今度は向こうが怪訝な顔をした。東京には、大阪で使う黄色と白のお供用の水引がない。名古屋あたりまでは黄色と白を使うようだ。最近では、東京でもそれを置く店が少し出てきたが。
 たかが水引だが、されど水引である。大阪では、黒白の「御供」が来てしまったら「葬式直後のようで生々しい」と感じてしまうのである。私はそれも、心を切り換える一つの暮らしのちえのように思うのだ。

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