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今かぐわしき人々 第10回:加藤登紀子さん(歌手)
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    第10回:加藤登紀子さん(歌手)

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50年以上もの歌手活動の傍ら、音楽を通じて世界の環境問題とも向き合い、旅を続ける加藤登紀子さん。バイタリティにあふれ、女性としての美しさも持ち続ける彼女はいつも気高い香りが漂う人。加藤さんの香りの思い出、旅先で出会った香りの深い意味について、ゆったりとお話を伺いました。

《1》幼い頃育った京都には文化の香りがあった

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ハルビンで生まれ、戦後、日本に引き揚げてきた家族とともに、登紀子さんは幼い頃を京都の上賀茂神社のそばで過ごしました。

「白壁が続く美しい町です。細い川が一軒ずつ社家に引き込まれていて、隣の庭へとつながっているのです。特に上賀茂神社の奥の川は大事にされていて、美しい水の流れでした。
透き通った水のなかに砂金がきらきらしているのが見えるのです。その後、いろんな国を旅することになりますが、あんなふうにさやさやと流れる水は見たことがない。私はあの流れとともに今も生きているような気がします」

引き揚げてきた一家は、静かな町のなかでは目立った存在でした。

「亡くなった母はとてもおしゃれな人で、そんな時代からどこで手に入れたのか、ジバンシィの香水をつけていました。その京都の街では私たちは他所者だから目立つ上に、さらにハイヒールを履いてイヤリングをしている母は目立った。兄が 母に『そんな格好で学校に来ないで』と言ったのを覚えています。でも動じることはなかったですね。私は20歳で初めて恋人ができたとき、その母の香水をこっそりセーターにつけたのを覚えています」

登紀子さんのお母様は、子どもたちにも文化の香りを身に付けたいと思ったようでした。

「姉にはバイオリンや能を習わせたり。私にも小さい頃から茶道を習いに行かせました。畳の縁を踏んだりしないように。きちんと挨拶ができるように。よく能の舞台も見に連れて行ってくれました。京都には生活のなかにしみわたっている文化の香りがありましたね」

茶道のなかにあった美意識を、今も登紀子さんは大事にしています。

「一服のお茶とともに人が向き合う時間は、一瞬の宝なのね。お香もそういうものだと思います」

香との付き合い方も「きものに香をふくめる」のが好きだそうです。
「今は香水、というのはほとんど使わないですね。衣類にほのかに香る、という感じが好きです。箪笥のなか、特にスカーフの引き出しに香を入れていて、自分が感じる程度に香らせています。おしゃれの最後の仕上げ、というぐらいに」

ステージでも、羽衣のようなストールをさーっとなびかせて歌うことが多い登紀子さん。そこに漂うほのかな香りが、彼女の歌声の最初の一声を呼び覚ましているのかもしれません。

《2》殺生をしない仏教の香の文化

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インド、バリ島、ブータン。…これまで登紀子さんが訪れた様々な国での香の体験は、その国の宗教とも密接につながっていました。

「小乗仏教の教えに忠実になると、お坊さんは一日二食、自分で稼いではいけないそうなんです。托鉢をして、お布施のおかゆをいただいて生きていかないといけない。欲を満たすためには努力してはいけないんです。自然とくるものを待たなければならない」

大地にひれ伏す人々。漂うお香の香り。信仰に厚い人たちは、蚊がぶんぶんいる状況でも、蚊取り線香を焚きません。

「蚊よけになるようなお香は焚くけれど、殺生はしない。そういう気持ちが徹底しているんですね。お香には邪心を浄化したりする意味もあるのでしょう。イスラムにせよ、仏教にせよ、どんな宗教でも、お香と信仰心はつながっているのが不思議ですね」。

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