「空の下で咲きましょう」。コロナ禍の自粛期間中も、元気で気力にあふれている加藤登紀子さん。新しい3枚組のベスト・アルバムのタイトルは『花物語』で、ほとんどの曲に花が歌い込まれています。
彼女の情熱の系譜には、アフガニスタンで凶弾に倒れた中村哲さんとの友情や、このインタビューの前日に亡くなった瀬戸内寂聴さんとの交流もありました。
「花」に託した生きることの意味。その根っこにある情熱と革命への思いを語っていただきました。
コロナ禍で得たコンサートのない時間を、加藤登紀子さんは無駄にすることがありませんでした。
「洋服をたくさんリメイクしました。今日の服もたくさんコサージュのようなものがついていたのだけれど、それを外して。たくさん洋服が蘇ったから、写真撮りもしてね」
会う人をあたたかく照らすようなカラフルなジャケットが、美しい笑顔をさらに引き立てています。
無心に今までの衣装と向き合うだけではなく、登紀子さんは亡くなった中村哲さんの著作を読み、その足跡を丁寧にたどって『哲さんの声が聞こえる〜中村哲医師が見たアフガンの光』(合同出版)を書き上げました。
「第1部は1984年に哲さんがアフガニスタンとの国境に近いパキスタンのペシャワールに派遣されてからの足跡。第2部は哲さんとの出会い、ご一緒した思い出。第3部は哲さんの人生訓を読み解きました」
とても印象に残っているのは、明治学院大学で辻信一さん、娘のYaeさんと公開講座をしたときのこと。
「ちょうどその講座の時期が、都知事選の真っ最中だったので、誰かが『哲さん、いっそ都知事になってください』と言ったの。
そうしたら『僕がもし都知事になったら、東京を破壊します。こんな街はいらないんです。皆さんが思っているより、私は危険人物です』なんておっしゃったんですよ(笑)」
訥々と微笑んで語られているものの、登紀子さんは彼の本音を感じていたようです。
「哲さんは根本的に怒ってる人なんですよ。国、政治、制度といったものに対してね。信じているのは素朴に生きている民だけなのね。95%が農民のアフガニスタン。内戦であっという間に荒廃した土地をまたあっという間に緑にすることもできる人たちだと」
そんな民のために命を賭けた中村哲さん。
「哲さんもバラがお好きでした。ジャララバードの病院にバラ園をつくっていて、『バラ100万本をあなたに』というサインが掲げてあったんです。アフガニスタンの人たちも花が大好きだと聞きました。人間が生命を守りたい、捧げたいというシンボルが花なのかもしれません」。