昨年9月、アルバム『TERRA~Here we will stay』を発売。2021年は『No matter what, I SING』、今年は『八神純子Live キミの街へ~For all living things』と、全国ツアーを積極的に続ける八神純子さん。ロサンゼルスに渡り、ほとんど日本に帰ることもなかった十数年に続くここ10年来の歌声は、成熟した人間としての魅力に満ちて、ますます存在感があります。
なめらかで心地よいハイトーンボイスがデビュー当時の八神純子さんの持ち味なら、最近の八神純子さんの声はそこに力強さや聴く人の心を安心させるような何かが加わっています。
コロナ禍にあっても、感染対策をしつつ、なるべくコンサートを開いてきた八神さん。
「もちろん『今やるべきじゃない』とおっしゃる方もいます。でも、できる限りの感染予防対策をして、こういう時だからこそ、やったほうがいいと思うんです。特に私のコンサートは、最後の盛り上がりまでは、ほとんど静かに聴くコンサートですしね。音楽で免疫力はアップするというのを数字で証明するのは難しいけれど『勇気をもらいました』とか『元気が出ました』という声は確実にいただいていますので」
確かに『負けないわ』、『Rising』という最近の歌に並ぶ、生きることを肯定し、応援するような言葉の数々に励まされる人は多いでしょう。
また、80年代の懐かしい曲が今の彼女の声でさらに印象深く再現されるのも気分を揚げてくれます。
「今の私のエネルギーは新しい曲に込められているかな。ただ、歳を重ねて気づく言葉の意味もあります。私自身の表現力も人生経験も増えた。それは私自身もそうですが、聴いてくださる皆さんもそうでしょう。あの頃、コンサートに来る人たちはシングルのヒット曲を聴いて来る人たちが多かったので『他にもこんな曲があるんだ』という感じだったけど、今、来てくださる方々は、1曲1曲を初めて手にした物語を読むように聴いてくださいます。先入観で良い悪いと決めず、楽しんでいただけるようで嬉しいですね」
新しい曲と懐かしい曲。80年代の日本のシティポップが、世界で評価されている今、それらの楽曲の完成度の高さもまた改めて感じるところ。作詞作曲もされている八神さんの楽曲も、色褪せることがありません。
「デビューした頃の方が、欧米の音楽に憧れて、感化されていたかもしれませんね。アメリカに暮らして30年以上、もちろん現地の歌は耳には入ってくるし、記憶のどこかにも刻まれているかもしれませんが、今はかっこいいものを作ろうという気持ちは無くなりました。むしろ、私のオリジナル、私でしか作れないものをつくっていこうと。『こんな曲が流行っているよ』と言われれば拒まず聴いてはみますが、自分のオリジナリティが大事です。私にしかできない作品を歌っていくことが一番大事なんです」
八神純子さんの日本での本格的な活動復帰のきっかけになったのは、2010年にNHK『SONGS』に出演されたことが大きかったようですが、2011年の東北大震災の日にちょうど十数年ぶりのコンサートを行うために日本への飛行機のチケットを取っていたという運命的なタイミングもあったようです。その直行便は飛ばず、彼女は飛行機を乗り継ぎ、日本に辿り着きました。
そんなこともあってか、チャリティー・コンサートの立ち上げも早く、ハワイ、シリコンバレーなど各地で行ってきました。
「周囲に素晴らしいブレーンがいますし、ひとつひとつ、正しいジャッジで進んできたと思います。そうでなければ今ある新しい作品は歌えていません。そういう私を一緒に楽しんで、支持してくださるのは、歌声の不思議、音楽の不思議。私も皆さんと同じように折れそうになったことはあります。でも、また音楽を通して皆さんに支えられる。今の皆さんとの繋がりは、デビューした頃とは違うものだと感じています」。