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今かぐわしき人々 第133回
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    第133回:三島有紀子さん(映画監督、脚本家)

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 2017年にモントリオール映画祭で審査員特別グランプリとなった『幼な子われらに生まれ』など受賞歴も多く、また5月にはフランスとイタリアで『Red』が上映されるなど、国内外から長らく熱い視線を浴びている映画監督、三島有紀子さん。
 映像を見ているだけで、繊細に肌に触れるような感覚をもつ作品を送り出す彼女に、話題作『IMPERIAL大阪堂島出入橋』のことや、映画を撮る思いについて伺いました。

《1》微かな光を感じることが映画の出発点になった

 この春、短編映画のオムニバス上映『MIRRORLIAR FILMS Season2』のトリを飾ったのは、三島有紀子監督の『IMPERIAL大阪堂島出入橋』でした。
 主人公の閉店した洋食屋のシェフを演じたのは、佐藤浩市さん。店の生命だったデミグラスソースの載ったハンバーグの皿を手に深夜の大阪・堂島を走りながら独白するシーンが印象的な作品です。

「大学を卒業してNHKに就職し、たまたま配属されたのが大阪。もともと大阪・堂島育ちの私は27歳までそこで過ごしました。インペリアルという洋食屋は本当にあって、お父様の二代目として、3歳からの幼なじみががんばっていたのです。子どもの頃、今の出入橋のあたりに公園があって、私はその彼と初めて立ちションに挑戦したりしたものです(笑)。もちろん、うまくいかずに、彼のお母さんがパンツを貸してくれたりしました。それくらいお互いの家を行ったり来たりする、友達だったんです」

 NHKでは人間ドキュメンタリーを撮ったり、『トップランナー』などのトークショーを作ったり。10年を過ごし、やがて映画監督を目指して京都の東映の撮影所で助監督として映画を学びました。

「私は34~5歳になっていました。日焼けして真っ黒になって、久しぶりのインペリアルにハンバーグとエビフライのランチを食べに行ったんです。幼なじみは結婚して、子どももいて、家族ぐるみで迎えてくれました。その光景を見たときに、私だけ人生が止まっているように感じたのです。結婚しているわけでもなく、自分の映画を撮れてもいない。そんな私を家族みんなで『がんばってな』と見送ってくれて。彼らの子どもがバイバイ、と手を振ってくれて」

 家族ではないけれど、それ以上に自分の心の奥に気づいて心配してくれる人たちがいる。三島さんにとってインペリアルはそんな場所だったのでしょう。
 それからまた20年。コロナ禍になり、施設に入ってなかなか会えなくなったお母様が所望されたのもインペリアルのハンバーグでした。

「コウヘイくんに作ってもらうね、と、店へ行ったら、なんと閉店の張り紙があるではないですか。テーブルや椅子が全部なくなっていて、胸が締め付けられるような気持ちになりました。連絡先は知っていたので、会いに行ったら『店を売らなければならなくなった』と」

 しかし、彼は驚くべきことを続けていたのです。

「『父親の代から55年間、継ぎ足し継ぎ足し作り続けているデミグラスソースやから、今もこのマンションのキッチンで作り続けてるねんで』と。そのソースで、母が食べやすいようにと、ハンバーグサンドを作ってくれました」

 店をなくしても、ソースを作り続けていた彼。

「微かな光に触れたような気がしました。それが、この映画を撮ろうと思った始まりです」。

三島有紀子さん

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