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    第133回:三島有紀子さん(映画監督、脚本家)

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《2》これが最後という緊張から奇跡が起きた

 『MIRRORLIAR FILMS Season2』は、俳優の山田孝之さんのプロジェクト。俳優や映画監督が、自主映画で撮る映画をオムニバスで公開しています。

「最初この映画は自主制作の短編で撮ろうと。プロジェクトに入っても予算はそんなにかけられませんでした。でも、パーソナルな映画だからこそ、思い通りのものを作りたい。主人公は、佐藤浩市さんにお願いしたいと思いました。いつだったか、原田芳雄さんのお宅の餅つきの寄り合いで佐藤浩市さんにお会いしたとき『いつか映画をやろうね』と言ってくださったのを憶えていたんです。それでダメもとで、台本と演出意図を書いたものを渡し、お願いしてみました」

 佐藤さんの返事は「出るよ」でした。他のキャストも撮影、照明、録音、衣装、メイク、演出部…。スタッフも三島さんのためならと精鋭が集まったのです。

「この映画はオーナーシェフの役の佐藤さんが、真夜中、800メートルにも及ぶ距離を走り、路上に寝そべったりという姿をワンカットで撮るシーンがメインです。夜の闇から走り始めて、最後はまもなく夜が明けるかもしれないという時間まで。彼が生きてきた人生が見えるといいなと思いました」

 日の出から逆算して走り始めるシーンを撮る。つまり、1日1回しか撮れません。

「綿密に計算しやってみたのですが、1回目はいろんなことがよくなかったのです。佐藤さんは『もう1回、戻って最初からやろう』とおっしゃいましたが、それでは夜が明けてしまいます。それで、翌日、また4時16分に撮影をスタートしました。『今日は何があってもカメラを止めません。今日が全てのテイクです』と言ったら、5秒ほど間があって、佐藤さんは『わかった』とおっしゃいました」

 ベテラン中のベテランである俳優と、気鋭の映画監督との対峙。

「映画の神様みたいな方ですからね。私は芝居を撮る仕事をしていますが、佐藤さんがある種の緊張感を纏い、自分を追い込む姿は、それはそれは神々しかった」

 これが最後と役者にも自分たちスタッフにも言い聞かせた撮影は、いよいよ始まりました。

「録音部の技師さんは、アカデミー最優秀録音賞をとられたこともある72歳。最初はゴール地点の渡辺橋の袂にいるはずだったのに『みんな一緒に走るのに、走らないわけにはいかない』とおっしゃって。私はもちろん、スタッフみんなで佐藤さんと併走しました」

 奇跡の11分40秒。夜明けを見つめた佐藤さんとスタッフ全員の思いが、映像からも伝わってきます。

「最後にカットをかけた時、映像には映しえない香りが蘇ってくるということがあります。最後の渡辺橋の下には大きな堂島川が流れていますが、その人間くさい川の匂いがふっと鼻腔を満たしました」。

三島有紀子さん

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