2年前の夏、コロナ禍に初演された熊谷真実さん主演の舞台『マミィ!』。どんなに大変なことも幸せに受け止めて周りを明るくする主人公は、まるで真実さんのよう。好評だったこの舞台が今年も全国で再演されます。3月3〜5日は東京・亀戸文化センターで。稽古中の熊谷さんを訪ね、ますます輝く生き方について、舞台にかける思いについて、たっぷり話していただきました。
「『マミィ!』は、熊谷真実のマミ、ではないんです」
真顔でそう言った熊谷真実さんですが、この舞台には格別な思い入れがあります。自らの還暦を記念する舞台をとオリジナルで出来上がったものだからです。
「プリエールの有本佳子プロデューサーにご相談し、3年半前に還暦の記念の舞台として、初めて脚本家・田村孝裕さんをご指名でお願いしたんです。少しずつ台本が上がってきて、そこには私自身のキャラクターのようなセリフや、頑張っている人なら共感できるようなセリフもありました。さあ稽古!という時期と、私自身が離婚してしまった時期とが重なって、最初の稽古場でめそめそしてしまった。でもその時、田村さんに『いや、この物語は真実さんの人生じゃないんで』とビシッと言っていただき、ありがたかったです。はい、主人公はいつも誰かのことも気遣って自分は二の次にしてしまう、おかあさん=マミィ!なんですよ」
初演の『マミィ!』はコロナ禍の家族が描かれていましたが、今回は、15年間いなかったお父さんが帰ってくるという設定に。
「今回は、娘も息子も独り立ちしていて、姑と私が2人で暮らしている。そこへ15年間、蒸発していたおとうさんが帰ってくる、そこで事件が起こるという物語。切なくて哀しくて可笑しい、本当にジーンとくる脚本です。田村さんの世界は、私にはグサグサ刺さるんです。才能に惚れちゃってます」
自分に当てて書かれた作品というのは、自分の本性のようなものに対峙しなくてはならない、大変な仕事でしょう。
「そうですね。自分に近い、というのは難しいけれど、唯一無二だから。いつだったか私の亡くなった実母の話をしたことがあるので、それがベースになっているかもしれません。母はいつも、自分のことを二の次にして他の人のことを考えてきた人だから。人間の性格は長所であり短所にもなる。読み込むほどに痛みを伴いますね。全く違う人になる方が、体力の精神力も使うけれど、切り替えもはっきりできるんです。ただ、『マミィ!』の主人公と自分の共通点としていいところは『少女パレアナ』の”喜びゲーム”ではないですが、悲しみや辛いことを喜びや楽しみにパンと変換できるところかなと思います。『マミィ!』の主人公は、そこをおとうさんに突っ込まれたりしますが」
人の性格が長所にも短所にもなりうるのは、受け止める人もまたそれぞれだから。でもマイナスのことをプラスに変換できる真実さんの明るさが大好きな人はいっぱいいそう。
「私が生まれた家は、洋服屋を営んでいたんです。それで、店番をするときに、いらっしゃいませと出て行ったら、ちょっとテンション高めにする。そういうふうになっていて。生まれ育った環境は大きいかもしれません」
コロナ禍から続けているインスタライブでの発信も、そんな真実さんの真骨頂。
「いろんな人に会えないし、でもお互いに元気だよと言い合えるように、元気を発信できるように、もう2年以上やっています。たくさんの方に見ていただけて嬉しいです」。