ジャズピアニストとしてデビューして36年。ソロやトリオでの演奏はもちろん、バンド編成、オーケストラとの共演、シンガーやソリストの伴奏など、多岐に渡って常に包容力のある音楽を作り続ける、国府弘子さん。表情豊かでサスティナブルな音の奥にある、国府さんの人柄に迫ります。
レコード・デビューして36年というのが信じられないほど、その優雅で爽やかな印象が変わらない国府弘子さん。国立音楽大学在学時代にジャズに目覚め、卒業後に渡米してさらに学ばれたそうです。
「もともと、私は映画音楽、ポップス、歌謡曲、クラシック… ショパンやドビュッシーが好きで、そういういろんな音楽で育ってきました。ティーンエイジでジャズに出会ったので、いわゆるたたき上げのジャズピアニストではないのですが、36年、ジャズピアニストとしてやってきたことで、お役目は一つ叶ったのかなと思っています。私のジャズは聴きやすいけど、ハマると浅くはないな、と思っていただけたら嬉しいですね」
彼女がつくるオリジナル曲、取り上げる曲は、どんなジャンルにしても流行り廃りのないもの。
「今でこそ、サスティナブル、などという言葉がありますが、私のいる世界は、そういうサスティナブルな音で満ちている気がします。あえて脚光を浴びることもないし、ちやほやされる音楽ではないけれど、ラッキーなことにずっと聴いてもらってきたんですね。今思うと、小学校の頃からこんなことをやりたかったし、辞めるきっかけがわからないし。辞める辞めないという権利も、私にはないような気がする」
「辞める権利がない」という言葉は、音楽そのものやお客様に対しての彼女のリスペクトが現れている気がします。
「皆さんが、音楽が好きでいてくれる、という気持ちが嬉しいんです。ほら『街角ピアノ』という番組があるでしょう。夢中になって弾いている方がいるのを見ると、すごくうれしくなります。その演奏にまた通りがかりの知らない人たちが足を止め、惜しみない拍手を贈る。私たちは、コンサートの最後の曲の演奏が終わると、照明さんが灯りを落とし、皆さんがアンコールの拍手をくださるのが当たり前、みたいに思いがち。その拍手の意味をもっとしっかり、ありがたく思う気持ちになりますね」。