国府さんがこれまでに出したアルバムは日米通して24枚。たくさんの曲を書き、たくさんのコンサートで演奏してきた彼女の原点には、音楽に突き動かされ、誰かに聴いてもらうために弾く真っ白な気持ちが消えていません。
そんな彼女の音を聴きたい人もたくさんいるし、一緒に演奏したいと思う人もたくさんいます。
「譜面書きやリハーサルなど、たくさん準備をしなくちゃいけないコンサートだけで月に2〜3回ありますかね。自分がピアニストとして主役になるときもあれば、シンガーやソリストを引き立てるときもある。オーケストラと一緒に弾くときも。主役としてオーラを出さないといけない時と、寄り添う立場になる時と、立ち位置がいろいろなので、それが人間修行になりますね」
たとえば、フレグラボにもたびたび登場してくださっている岩崎宏美さんとのデュオは大好評で、アルバム「Piano Songs」も一緒に作られています。
「宏美さんは素晴らしいシンガー。時々歌声に聞き惚れて伴奏を止め、一人きりにしちゃうことも(笑)!そういう差し引きの判断も楽しい修行ですね」そのほかにも、弦楽奏者やフルートも入れた「ファンタスティック8」、尺八の藤原道山さんとマリンバのSINSKEさんと共に演奏する「THE THREE」。ソロ、トリオ、自らのバンド。
「譜面書きに追われても、本番が終わると本当に寂しくなっちゃう」
先日、川崎市麻生文化会館大ホールで行われた「THE THREE」のコンサートを拝見させていただきました。
それぞれの曲で、くるくると楽しげに誰かが主役になる。そして根っこのところで、国府さんの優しい手のひらのようなピアノが聴こえる。フレンドリーで心が浄化されるようなコンサートでした。
健やかな笑顔でお話をしてくださる国府さんですが、長い活動の間には、健康を崩されたこともありました。
「13年前には乳がん、4年前には心筋梗塞を経験しました。心筋梗塞のときは、幸いなことに心臓救急病院から徒歩5分のところで倒れ、早い処置で助かりました。そういう生死の境を見るたびに、生は永遠ではないことを思い知らされます。でも音楽をする、写真を撮る、恋愛する、人と関わる。すべては永遠ではない、ということから始まっているのかもしれませんよね。歴史という長い時間から見れば、私たちの人生はみんな一瞬の点のようなもの・・・でも、それを思う切なさから、アートは始まっているのではないかしら」
がんの手術の後には、自分自身の感覚の変化もあったそうです。
「がんの治療をしたときに、すごく香りを意識するようになったんです。それまではラベンダーがリラックスにいいとかというくらいしか認識していなかったのですが、ミントが育つ香りや、オレンジなどの柑橘系の香りがすごく心地よいと気づくようになりました。自分を上げてくれるんですね。部屋の香りにバーべナを選んだり。落ち着く香りより、気分を明るくする、前向きにしてくれる香りを望むようになったんです」
バーべナは、サクラソウのような小さな花ですが、その香りはまさにレモンのようです。爽やかで、さあ、これからは健やかにと前を向いた国府さんにぴったりだったのでしょう。
「永遠ではない」という思いと「サスティナブルでありたい」という思いは相反しますが、それもまた、生きる醍醐味。
「そうですね。相反しますね。サスティナブルと言っても、点、なんですね。今、95年生きるつもりで話すと、好きなものはやっぱり長続きします。1回好きになると長いし、耳から音を拾うこと、ピアノを弾くことも60年ぐらい続いているし。そこで『永遠ではないんだ』と思うからこそ、また続くのかな」。