マリンバという楽器にこだわり、その楽器の可能性を探り続けているSINSKEさん。
CDデビューして20周年となる今年の記念すべきコンサートは「 」(SPACE)と銘打たれ、自分以外の6人のマリンバ奏者と7台でその世界を表現します。
10月29日、紀尾井ホールでのその唯一無二の演奏を前に、この20年への深い想いを語っていただきました。
木で作られた5オクターブの鍵盤を両手に持ったマレットで叩くマリンバ。SINSKEさんは10代でこの楽器に出会い、ベルギーのアントワープ王立音楽院に自らこの楽器の専科を作ってしまった伝説の奏者。
その経緯は、第13回の登場時に詳しくあります。
https://frag-lab.com/special_interview/13_01.html
日本でCDデビューして今年20周年。まずは今、どんな気持ちなのかを訊ねました。
「20年。達成感というものはないですね。ようやく楽器が弾けるようになってきた、なり始めたという感じです。今までは勢いに任せて演奏してきた部分もあります。一度蓄積したものをアウトプットして、枯渇して手持ち無沙汰になった感じでしょうか。5年ぐらい前かな、がらんどうになった気がしたんです。もっと持ってたはずなのになあ、何をやったらいいんだろうと。それで、ジャンルではなく、マリンバという楽器そのものに向き合おうと思い始めました」
ソロのライブ、藤原道山さんとの「世界最小オーケストラ」、打楽器奏者とユニットを組んでいる「音舞人」(オンマイビート)。演奏スタイルもさまざまに、また音楽のジャンルもオリジナルはもちろん、クラシックからポップス、ジャズ、世界民謡など、ありとあらゆるものを手がけてきました。
「それで、2021年の6月、今年の3月には、ソロコンサートで『マリンバのために作られた曲』を中心に演奏したら、とても好評だったんです。まるで知らない画家の絵画展へ行くような体験をしてもらえたらと。ほら、全く知らない画家でも、説明文を読んでみると『この人はこんな思いで描いたのか』と感動することもあります。毎回そんな絵画展のようだと、ファンの人は疲れるかもしれませんが。新しい体験をしてもらう試みでしたが、好評で、僕自身もしっかりマリンバに向き合えました」
このコンサートを聴かせていただきましたが、未知の曲に出会う楽しみに満ちていました。原曲を知っていると『原曲の方がいいな』と思ったりすることもありますが、やはりマリンバのために書かれた原曲は凄みがありました。
「難曲もありましたが、やはりこの楽器の色彩感が表現できたと思いました。鉛筆1色から24色のクレヨンへ。そして水彩で、油彩でという違いのように。あるいは、柔らかい、硬いという音の差だけではなく、どう柔らかいのか、どう硬いのか、というところまで。形容詞の如く音に変化を与えられるかが大事なんだと。そんなことに20年かかった今になって気づきました」
2.7メートルの楽器はもっともっと可能性を孕んでいたのです。
「手を伸ばすのか、そこに立って叩くのかで同じ音も違ってきます。一挙手一投足の動きがすべて音になる。目で叩いているようなところもある。そういうことが今なら伝えられるのではないかと」
SINSKEさん自身が、マリンバという楽器を楽しみ始めた、いきいき感が伝わってきます。