3人が今回「かつしかトリオ」を組むことになったきっかけも、とても自然な流れだったようです。 神保さんがソロとしてやっている「神保彰ワンマンオーケストラ」のゲストとして、向谷さん、櫻井さんを呼ばれたことが、そのきっかけでした。
「かつしかシンフォニーヒルズでワンマンオーケストラを始めて4年目のゲストに、向谷さんをお招きし、5年目に櫻井さんをお迎えして、すごく盛り上がったんです。それで6年目にかつしかトリオの原型が出来上がりました。その時は”神保彰ワンマンオーケストラ フィーチャリングかつしかトリオ”と呼んでいました。名乗っちゃっていい?と訊いたら、向谷さんが『とりあえず、いいか』と」(神保)
「それが正式なバンド名になっちゃうとは。意識がそこに集中していなかったんですよ(笑)」(向谷)
神保さんにはカシオペアという横文字と差異化したい思いはあったようです。
「当時、僕はまだカシオペアをサポートしていたし、横文字のかっこいい名前にするとバッティングしちゃうかなという思いはありました。それでストレートなバンド名に」(神保)
再び3人が出会った「かつしかシンフォニーヒルズ」という場所からとった「かつしか」でしたが、実はもう一つ、ここに大きな縁のある人が。
櫻井さんは、葛飾区出身。
「僕はここが地元なんです。かつしかシンフォーニーヒルズは、元は葛飾公会堂でした。その時代、僕は小2だったかな、ピアノの発表会でそこに出ていたんですよ」(櫻井)
その話は向谷さんも神保さんも初耳だったようです。
「櫻井さんがピアノやってたんだったら… めんどくさいところ、僕の代わりに弾いてもらおうかな」と、向谷さんはニコニコ。そんな冗談は、新しいアルバムの10曲をレコーディングしたばかりだという高揚感から出てきたようです。
かつしかトリオのデビューアルバムとなる『M.R.I_ミライ』は、まったくの新曲ばかり10曲が入ったフルアルバム。そのうち先行シングルを3曲発売し、満を持してのリリースです。
「この歳になってデビューアルバムですよ。面白いじゃないですか。苦節三十年、的な(笑)。僕たちは集団自由体制。みんなで自由にできるし、なんでもできる。言い合って、話し合って、それを昇華させていく。そのすべてが楽しいんですよ」(向谷)
手練な3人の究極の音楽的自由。それを叶えるために、取り決めた二つのルールがありました。
「〇〇さんが作った曲、編曲した曲、というのではなくて、すべて”かつしかトリオ”として作ったコンテンツにしよう、と決めたんです。だから、曲作りも含めて、データのやりとり、アレンジなど綿密な行き来でやっています。だからそれぞれのルーツや音楽性が良い形で化学反応を起こしていると思います。もう一つは、今流行りの”自動演奏”を排除するということ。手作業を極めよう。それが、大人げないオトナの音楽というテーマにつながっているんです」(向谷)
手作業のみ、とひとことで言っても、そこに彼らの魅力が詰まっています。先程の向谷さんの「めんどくさいところ」発言は、実はこんなエピソードから。櫻井さんが種明かししてくれました。
「デモテープのデータは打ち込みで緻密な演奏を正確な音価で作っていたんです。気合を入れてスラップのインパクトのあるものをと、低い音域から高い音域まで16音符の連続でのぼり詰めて行くみたいなところがあって…」(櫻井)
「これキーボードでどうするの?みたいな(笑)。鍵盤はストロークじゃなくて押して上がっての繰り返しですからね」(向谷)
やりとりを繰り返し、結局、1年がかりで10曲が完成しました。
「時間をかけて、それなりに熟成させて行きました。アグレッシブな勢いがあるアルバムになったと思います」(櫻井)
「曲調のメロウなところ、キャッチーなところ。メロディラインの聴きやすさ。ギミックはある意味古いところもあるけれど、それもルーツだし、皆さんには面白がってもらえるかな、と。そこから展開させるサプライズ感で、メリハリができる。それが我々の良さですね」(向谷)
タイトルチューンの『M.R.I_ミライ』のほか、Bright、Shining、Majesticと、ポジティブで成熟感のあるワードが並びます。
「問題は、ライブでどう再現するかですね」と悪戯っぽく笑う向谷さんですが、東京・名古屋・大阪など5ヶ所で開催されるコンサートツアーのチケットはあっという間に完売しました。
「去年もツアーをやったんですが、半分はカシオペアの曲だった。でも、今年はほとんどかつしかトリオの新曲が並びます。それを新しいと感じて、受け入れてもらえるか。やっぱり昔の方がいいやと言われてしまうのか。かつしかトリオが次に進めるかどうかの、大きな勝負どころになるツアーだと思っています」(向谷)
そこは冗談めかすことなく、向谷さんは真剣な表情でした」。