お笑い芸人”末高斗夢”から落語家へ転身して12年。三遊亭こうもりから三遊亭とむへ。そして今年6月に真打に昇進し、錦笑亭満堂へ。満堂さんは1月21日にはその真打昇進お披露目の千秋楽を日本武道館で行います。「人としてちゃんとしてない」と我が身を戒める満堂さんですが、笑いに関しては強い想いがあります。インタビュー前日の惨事に複雑な心境ながらも、真摯に語っていただきました。
『錦笑亭満堂真打披露』ツアーは7月から始まり、9月24日には東京・国立演芸場で催されていました。
その日は日差しが強いけれど、爽やかな秋風が吹き始めた日曜日。師匠の三遊亭好楽さんを始め、兄弟子の道楽さんも出演する華やかな顔ぶれ。満堂さんは、まず毎日放送アナウンサーの福島暢啓さんとのコンビ「ヤングタウン」で、漫才を披露しました。このコンビ、年末の『Mー1グランプリ』の1回戦をすでに勝ち抜いています。
中学時代に実際に生徒会長になった経験のある満堂さん。二人は中学生時代にタイムスリップし、満堂さんの選挙出馬を福島さんが演説で応援するというネタ。
会場は大きな笑いに湧きました。
「漫才は2時間稽古しました。落語は1回も稽古していなくて、弟弟子に『落語の稽古もあれくらいしてくださいよ』と言われていましたね」
トリの落語はもちろん、満堂さん。演題は『心眼』。
「漫才でありがたいことに笑いをとっていましたから、落語は滑稽噺よりも人情噺のほうが良いだろうと思いました。僕はあまり滑稽噺をやらないんです。『心眼』のような、筋も含めて好きな噺以外、手を出さない」
目の見えない男が夢の中で見えるようになる噺。満堂さんの喋りは淀みなく、間にも客席を引き込む求心力があります。演劇を見るような演技は、初めて落語を見る人にもわかりやすいでしょう。
「僕はクサイですから(笑)。入り込んで格好つけてやってますから。本来の落語はもっと軽くやらなきゃいけないんです。いろんな人を演じ分けますからね」
なぜそんなふうに話すのか。そこには満堂さんなりの哲学がありました。
「自分の意見を率直に言えば、私は常に落語について慎重な見方をしています。古典には疑念を持っているのでそのため、どのように古典を伝えるべきか、一生懸命考えています。古典の滑稽話は、現代には合わない部分もあります。その点で、新作の方が魅力的に感じてしまうんですよね。ですから、古典を愛する人たちには敵わないと思っています。」
満堂さんは落語にどこか慎重だからこそ、落語というものを極めて客観的に見ているのかもしれません。そこには、どう伝えれば伝わるか、を懸命に考える姿勢があります。
「今でもお笑いの方が好きなんでしょう。でも、お笑いは好き過ぎて、緊張してしまう。緊張して良いことは何もないんです。落語はそこまで好きじゃない。だから、少し距離ができて、リラックスしてできるんです。仕事としてはそっちの方が向いています」
そしてため息をついて、こう言いました。
「落語家はみんな、真面目で堅いです。僕は人としてちゃんとしてないから。すべてそこに行き着くんですよ」。