ある時は警部、ある時は女方。そして今回、PARCO劇場開場50周年記念シリーズとなる『海をゆく者』で、アイルランドの田舎町の村の飲んだくれの一人を演じる大谷亮介さん。小日向文世さん、高橋克実さん、浅野和之さん、平田満さんと5人で演じる困った素敵なオトナたちが、クリスマスのほろ苦いファンタジーを舞台に繰り広げます。
今回、稽古の現場にお邪魔し、演じるニッキーの役柄の扮装で撮りおろしをさせていただきました。
舞台への想いと、ワークショップの活動などについてお話を伺いました。
アイルランドの田舎町。酒浸りの日々を送る男たちのところへ、大谷亮介さん演じるニッキーは彼らの運命を左右するロックハートという男(小日向文世)を連れて来ます。
ロックハートは、ある約束を果たすために現れた… というサスペンスが根底にありつつ、洒脱な会話とやりとりの中に人生の悲哀を滲ませて。
『海をゆく者』(コナー・マクファーソン作、栗山民也演出)は、2009年、2014年と演じられ、今回は3度目という人気の演目なのです。
大谷さんは、最初からこの舞台に参加している1人。
「最初のときは若かったからね。飛んだり跳ねたりしながらやっていましたよ。歳を取ったからと言ってじっとしているわけにはいかないんで、そこは筋トレしてやっています。セリフもね、若いときは反射神経でそのまま憶えていたけれど、今は一語一語に長く生きてきたこだわりが出てくるんですよね。きっと他の役者たちもそうだろうから、会話に工夫が必要になってくるんです」
一語一語へのこだわり、解釈の違い。翻訳劇ならではの面白さなのかもしれません。
「翻訳ものですからね。例えば古い作品でも日本の『雨月物語』みたいなものはすーっと言葉が入ってくるんです。だけど、翻訳ものは『ここはどういう意味だろうな』とか思い始めると、もっとここはこう言った方がいいんじゃないかと。若いときはわかったつもりでやっていたな、と思ったりします。そういう、気づきがありますね。だから、前回をなぞらずに、1回バラバラにして、新しい気持ちでやった方がいいのかなと思っています」
稽古場のセットを見渡すと、キリストの肖像画があったり、テーブルの上に燭台があったり、貧しい田舎町の家ながらも、どこかアイリッシュの匂いが漂う洒落たつくり。ウィスキーのスモーキーな香りがしてきそうです。
この日は自主練の日でしたが、片隅で他の役者たちも台本を読み合う姿があり、それぞれの方が大谷さんのように一語一語にこだわっているのだろうと感じました。
「でもわかりやすい話なんでね。家族とか、友人。神様と悪魔。誰にでもわかってもらえる話だと思います。酒、お金、トランプゲーム。いろんなわかりやすいもののなかに、深いテーマがあって、見ている人にはいろんな捉え方をしてもらえると思います。面白さが1個じゃない。楽しんでもらえる演劇だと思いますよ」。