太極拳、とひとことで言っても、健康のために緩やかに動作をするだけのものもあれば、舞のように人に見せるもの、またスポーツ競技としてのものもあります。
中国では武術(うーしゅー)、日本での競技名は武術太極拳(ぶじゅつたいきょくけん)はまさにスポーツ競技。とはいえ、その動きはとても華やかで美しいものです。
元日本代表としてアジア大会で銀メダルまで獲得したことのある市来崎大祐さんは、指導をしながら自らも今度はそれをエンタテイメントとして表現しようとしています。
さて、市来崎さんの新たなチャレンジとは。
現役時代、第一線で世界的な大会に出場し続けていた市来崎大祐さんは、今は指導の場で活躍されています。この日は銀座にあるスタジオでのレッスン。
「今日のクラスは健康のために太極拳をされている方々。僕は教えることが好きだし、太極拳そのものが好きだし、何よりも人が好きだから、この仕事もとても楽しいです」
一般人のクラスも持ちつつ、夜は武術太極拳の日本連盟強化コーチとして、後進の育成に努めます。
「僕の教え子が、今年、テキサスで開催された世界大会で、5位になったんです。2024年10月には横浜の新しいホール、BUNTAIでワールドカップがあります。今後、クラウドファンディングも実施していますので、よろしくお願いします。ぜひ盛り上げていきたいです」
自らはアジア大会で銀と銅のメダルをとった経験があります。
「大会を引退したのは、競技としてやれることはやり切ったからです。競技というのは完全にフィジカルがものをいう。筋トレも大切ですが、より力に頼らない武術の術、技を深めていきたいと思いました。次のステージに行く時だなと。食事、筋トレ、生活の全てが大会に向けての事でしたので、仕事をしながらの競技生活は心身への負担は大きかったです。今の方が、体も楽に動かせますし、武術も奥深いので知的好奇心が止みません。」
競技ではない太極拳そのものの面白さは、筋力がすべてではないところ。
「たとえば、筋力がどんなにすごくても、何か違うんです。速い動きも、筋力に頼っていると速さに限界がある。すとん、と、無駄な力が抜けて『虚霊頂勁』と言って自然体の姿勢を作りますが、実は僕もだいぶ時間がかかりました。愛好者の方はリラクゼーション、身体が協調して動く気持ちよさを感じれることが太極拳を楽しまれる要因だと思います。ゴルフやテニスをされている方にもとても内容は響くようです。女性の方が『ああこういうことですね』と、すとん、と力を抜いて技に入ってくれることがあったりします」。
では、もう一つの競技としての「武術太極拳」とは、どのようなものなのでしょう。
「中国の少林寺は北の方にあります。そこで始まった少林拳がベースになっている長拳、もう一つ、南の方には空手の元になった南拳というのがあります。これが唐の時代に日本に伝わり、唐手→空手となったんですね。それに太極拳を合わせた3種が主な武術太極拳の国際競技で行われます。オリンピック種目にしようという動きもありましたが、競技人口も少なく、非常に点数化しづらいからか、まだなっていません」。