仕事は面白いように良い方向へ。藤田さんは奈良橋陽子さんがおっしゃるように「なにかをもっている」人だったのです。
「好きなものを好き、と言っておくというのはチャンスをつかむのに大切なことかもしれません。石井ふく子先生が演出されていた『空のかあさま』で、東京公演では斉藤由貴さんが演じた役を名古屋公演で演じることになりました。これも詩人の金子みすゞ話で、以前、石井ふく子先生に、金子みすゞが好きだ、と言っていたんですね。ビートルズもずっと大好きで、大学の卒論は『ビートルズとリバプール・ダイレクトについて』という、リバプールの方言研究だったのですが、そういう話も伝わって、タモリさんの番組でポール・マッカートニー来日の時に、ポールマッカートニーが大好きと話したら、インタビューをさせてもらえたり」
好き、と思ったら好き。そのパワーの強さがずば抜けているのでしょう。
「何がなんでも好き、ということに関して、何がなんでも!なんですよね。(笑)ピンと来たときに動きたいし、今、行けると思ったときに飛び込みたい!」
去年、ぴんと来て始めたのが、朗読劇。
「もともと、南青山のMANDARAで、歌のライブをやっていて、たまたま新宿にあるシャンソニエPetitMOAで何かやりませんかと誘われた時、歌はマンダラさんでやっているから朗読劇をやりたいな、と小林綾子さんに声をかけたら、いいわよ、と言ってくれて、去年の4月からもう4回めを迎えます。前回は『金子みすゞの生い立ち』をやりました。綾子さんもみすゞを演じたことがあって。金子みすゞの娘である上村ふさえさんから見たみすゞの生涯を書き下ろしたものでした。いろんなものが目の前に降ってくるんです。」
好きなものを見つめる観察力が細かいということでしょう。
「そうですね。ノープランの旅番組とか大好きなんですけど、信号ひとつ進むのに1時間以上かかることもあったり。色んなものを見つけてしまい先に進めないんですよ(笑)。それくらい、世の中には面白いことが転がっていて、それをひとつひとつ拾っていくのが楽しいですよね」。
金子みすゞ、というテーマを決めても、こちらからもそちらからも見つめて、新しい魅力を探す。新しい解釈を見つける。藤田さんのそういうところが、発するセリフに生き生きとした力を与えていくのかもしれません。
プライベートでは、ボタン・アコーディオン奏者の桑山哲也さんと2005年に結婚。
「来年で20年ですね。結婚した当初は、仕事を辞めてもいいのかなくらいの気持ちでした。それはすごいことだったんです。ずっと生きてきて、若い頃から芝居のことしか考えたことなかった。辞める、なんていう選択肢はなかったんですが、辞めるという選択肢があってもいいなと思えたんですから。セリフを喋らなくていいんだな、と。今はまたちょっと違う気持ちで仕事はしたいけれど、二人の関係は当初とずっと変わりません。大好きですよ。ちょっとだけ、私もわがままを言えるようになったかな」
良きパートナーとの安定した暮らし。桑山さんってどんな人なのかと尋ねると「小5」という表現が返ってきました。
「彼はずっと小5なんです。小5って、あと一学年でトップなんですよね。もうすぐ学校で最年長になる、もう世界は知り尽くしたも同じだ!と思うけど本当はまだまだ何も知らない(笑)。そんな感じです」
二人の家に遊びに来る友人たちは「結婚っていいもんだね」と言って帰って行くそう。
「うちでパーティーをよくするんです。友人たちのなかには、離婚経験者もいれば、未婚の人もいる。でもみんな『結婚っていいもんだね』と思って帰っていくみたい。そういう人に巡り会えたことがすごいなあ。ここで会っても不思議じゃなかったね、という近い距離にいたポイントがいっぱいあるんですよ」
運命を見つめる目、一番いい出会いのタイミングを見逃さない目。藤田さんの目は、やっぱりとても鋭いのです。
「私、視力は悪いんですけどね」。