俳優として数々の賞を受賞して活躍する一方で、長年、写真にも取り組み、何度も写真展を開催している鶴田真由さん。5月に東京・赤坂のドイツ文化会館で『鶴田真由写真展 KATARIBE -flower prayers- 』を開催しました。撮ることへの飽くなき想い、そして今回、曼珠沙華と蓮の花に込められた想いとはなんだったのでしょう。
赤と白の曼珠沙華。そしてモノクロームで8年にわたって撮り続けたという、蓮の花。『鶴田真由写真展 KATARIBE -flower prayers- 』と題された鶴田真由さんの写真展は、5月にOAGドイツ東洋文化研究協会の主催で開催されました。OAGは1873年に当時のドイツの商人や外交官、学者によって設立された協会で、日本、東アジアに関する様々な知識をドイツ語を通して伝えるという目的があるそうです。
写真展のオープンニングでは、鶴田真由さんとOAGで今回の個展を担当されたシュテファン・シュパイデルさんとのトークイベントも開催されました。
「1年ほど前にお話をいただいて、もう少し違うもので飾ろうかと考えていたんです。でも、今年に入って能登で地震が起きたり、ロシアとウクライナの問題もあったり。それで鎮魂の意味も込めて、撮りためていたもののなかから、曼珠沙華と蓮を選びました。生と死と輪廻、という仏教の思想ですね。曼珠沙華の2枚の写真には『輪廻の風車』『結合する性と生』というタイトルをつけました。蓮は8枚の花びらの上に大日如来がおられる。つまり、世界の中心があると言われます」
8枚の蓮の花は、鶴田さんが8年がかりで撮り続けたもの。
「開花の時期は長くはないですし、お天気も良くないとダメ、光の綺麗な時間も1日のうち1時間くらい。そしてその光の下に花がなくてはならない。スケジュールを調整して、この日と狙って撮り続けました」
曼珠沙華は大きなプリントに。そして、蓮の花はモノクロームにプリントされ、白い箱の上に、鶴田さん自身の言葉と共に8枚の花弁を広げるように並んでいます。
「甘美な香りを解き放ち 創造の世界へと誘う 一つの種に一つの神話」。
そんな言葉とともに蓮の花を見下ろしていると、本当にそこにその形で咲いているようで、しばし時が止まるように感じます。
「甘美な香りは花のフェロモンです。そこから生命の創造へとつながっていく。もっとも神々しい創造は生命の創造ですから」
蓮の花は甘く華やかな香りがします。鶴田さんはその楽しみ方をご存知でした。
「フレッシュな花にお湯を注いで香りを移して飲むことを教わったことがあります。蓮の葉っぱでおこわを包んで蒸したものも、ほのかに香りがお米に移ります。蓮の香りは甘く華やかで五感を呼び覚まし、ここではないどこかへ誘ってくれます」
見ているだけで、香りが漂ってきそうな、白い花。花が語りかけてくるように見せるために、こんな工夫もありました。
「煉瓦の壁の上では写真が映えないのではないかと思い、夫に一度この空間をみてもらえないかと相談しました。すると『自分だったら机の上に並べるかな』と言ったので、翌日、会館内を探索したところ、図書館でこの棚を見つけました。それでOAGの職員の方にご協力いただいて白くペンキを塗り直し、蓮の花の8枚の花びらのように、8個並べました。皆さんのおかげで空間を生かせてよかったです。お客さまが真ん中に入ってぐるぐると周って見るのも気に入っています。その棚を貸していただけるという許可が、私の誕生日に降りたんです。神様からのプレゼントだったのでは?と嬉しくなりました」。