舞台に映像にと鮮烈な存在感を醸す俳優の一人、渡辺えりさん。2025年1月8日〜19日は、東京・下北沢の本多劇場で「渡辺えり古稀記念連続公演」を開催します。『鯨よ!私の手に乗れ』と『りぼん』の2作は、いずれも作・演出を自身で手がけた意欲作。すべてを自らの手でという舞台の一方、インタビューの日は新派の公演中。超多忙の中、思いを込めて語ってくださいました。
この日、東京・日本橋、三越劇場での新派公演『初夏の新派祭』で、『喜劇・お江戸みやげ』に主演されていた渡辺えりさん。
『喜劇・お江戸みやげ』は、茨城の結城から呉服の行商に来たおゆう(共演は波乃久里子さん)とお辻(渡辺さん)が、束の間出会った歌舞伎役者とその恋人のためにひと肌もふた肌も脱いでしまう物語。お辻さんは売上げのお金を全部差し出してしまうのですから、今の言葉でいう”推し”極まるといったところです。
「私はジュリー(沢田研二)の推しですからね。気持ちはわかりますよ。そばにいるだけで嬉しい。最後にお辻さんは、役者が自分でちぎった襦袢の片袖をもらうんだけど、それは今着ていたTシャツをもらうようなものですもんね。お辻さんが渡したのは今のお金に換算すれば200万円。かなり高いけどね(笑)」
新派で演じられる物語は、江戸、明治などかなり古い時代のもの。そういう舞台も、渡辺さんは今の人の気持ちに通じるように、体当たりで演じています。
「気持ちの入れ方は同じですよ。ただ着物を着ていなくちゃいけないのと、セリフが外国語くらい昔の言葉なので調べ上げて、アドリブを入れるにしても、時代に即した言葉を入れないといけないですから。あとはいろんな作法があるので、勉強しないと。日本人が昔からやってたことを、今の人は知らないですから、だから若い人には特に見ていただきたいですね」
着物を着たときの所作、和室での美しい居住まい。歌舞伎とはまた違う、たおやかな世界がそこにはあります。
しかし、渡辺さんが驚いたのは、その準備のしきたり。
「普通の芝居は、1ヶ月以上、稽古しますよね。でも新派は稽古しないの。最初、いじめかと思ってビクビクしました(笑)。135年続いているから、みんなそれが普通なんですね。演出の方法が他の舞台とは違っていて、役者の想像力と演技で工夫しなくてはならないことが多いのです。演出の指示を自分なりに捉えて千秋楽まで、毎日ちょっとずつ演技を付け加えて変化させていかなくてはならない。要所要所に自分なりの解釈を入れても良いということで、私なりの解釈を通していくためにも、動きを変えていかなくちゃいけない」
渡辺さんと波乃さんのコンビは、年齢など感じさせないハードな動きで、圧倒的に艶やか。明るい爽やかな色気が漂います。
「自分ではババぁババぁと言っているのに、戯曲【脚本】のト書きにね『まだみずみずしさが残っている』と書いてありましたからね」
恋焦がれる表情が自然で、観ている人たちはお辻さんの一途な想いに、最後は涙する人もいたほどでした。それはきっと、渡辺さんの中に本来ある純粋さに打たれたのでしょう。