成駒屋、八代目中村芝翫さんのお弟子さんである、中村橋吾さん。立役としてその道を邁進する彼が、8月10~12日、六本木トリコロールシアターで初めての朗読劇『動機』で成熟した女性役を演じます。原作はフランスの作家、ギィ・フォワシィ。そんな初挑戦から、自らつくって演じるアートパフォーマンスの「創作歌舞伎」まで。社会に役立つ役者を目指す、彼の挑戦は止まるところを知りません。
昼間の暑さが少し緩んだ六本木の夕暮れ。中村橋吾さんが長袖の黒い羽織もので現れました。「日焼けはNGなんですか」と尋ねると「お客様がTシャツ焼けだな、と現実に引き戻されたら嫌でしょうからね」と、にっこり。
8月10~12日、初めての朗読劇『動機』の舞台である六本木トリコロールシアターにほど近いレトロなカフェで、お話を聴くことになりました。
「プロデューサーさんからずっとラブコールをいただいていて、なかなかスケジュールが合わなかったところ、今回、やっとタイミングが合いました。朗読劇、そして女性役というのは、ぜひ体験してみたいなと」
というのも、普段、歌舞伎では橋吾さんは立役(たちやく)。つまり男性の役なのです。
「歌舞伎で稀に女性の役をやる時は、コミカルな感じで会場を盛り上げたりする役。今回は、フランスが舞台で恐ろしくも美しい女性の役ですから。しかも女性二人の会話でいろんなことが見えてくるという謎めいたストーリーなんです。レアな役柄に挑戦することは大事だなと。朗読劇ですから、女性の扮装をしたりはしませんが。チラシにはこだわり、友人のフォトグラファーがヴィンテージのお店もされている人だったので、扮装してメイクして撮ってもらいました」
物語の世界をつくる導入として、それは意味のあることだったのでしょう。橋吾さんは、歌舞伎の女形と現代劇の女性の役の違いもはっきりと意識しています。
「これを歌舞伎の女形のようにやると、おかしなことになってしまいます。ただ歌舞伎で学んできたノウハウで、その役の息をすると、その役になれるんですよね」
その役の息をする。それはどういうことなのでしょう。
「歌舞伎や文楽では、義太夫という浄瑠璃を語る人がいるんですね。芝居でいう、ナレーションのような役割です。それに合わせて役者が動いたり、セリフを言ったりする。語られる情景のなかで、役者は風景を見て、その空気を吸って、台詞を吐き出す。息と一緒に声を出すということで、そのお役だったり、その場の表現をつくっていくわけです。それはどんな演劇でも同じなんじゃないかと。いろんな素晴らしい先輩方、恩人に叱咤激励されて歌舞伎を学んで身についてきたものの集大成を今回、この朗読劇にぶつけてみようと思うんです」
外の日差しに負けないほど熱い思いが伝わってきます。