噺家としての円熟はもとより、おなじみ「笑点」の鮮やかな司会ぶり、そして役者としても活躍の場を広げる春風亭昇太さん。「独身はもはや職業」と断言されますが、多趣味にしてなかなか二枚目な私生活も垣間見えます。
静岡県静岡市清水区出身の春風亭昇太さん。大学時代、たまたま入部したのが落語研究会だったそう。時代はバブル前夜。バイトも就職も、いろいろあった時代だったと振り返ります。
「仕事はいろいろ選べた時代です。1981年頃だから、当時は漫才ブームのど真ん中ですよ。職業として考えたときに、お笑いもいいなと思いました。コントみたいなことをやりたい気持ちはあった。演劇もやってみたかった。ダメだったら、田舎に帰ってどこかに就職したらいいや、って思っていました」
意外な動機です。そこで、昇太さんは冷静に考えます。
「でもね、まず、コントは年を重ねてやっていけないのですよ。体力と体のキレが必要だから。コントをずっとやっている人は少ないですよね。演劇もね、作品、共演者、演出家、いろんな人の力が必要でしょう。一人でできることは何かなと考えたら、そのたまたまやっていた落語だったのですよ。落語は潔い。いいか、ダメか。一人で完結できる。成功したら自分のせい、失敗しても自分のせい」
それに、昇太さんは落語の唯一無二の素晴らしさを見抜いていました。
「落語家としてうまくいけば、役者をやったりコントをやったりする機会もあるでしょう。落語というのは、世界に類を見ない、一人で複数の人間を演じる芝居ですから。演劇の世界の一人芝居は一人で一人を演じるでしょう。同時に一人で複数を演じるなんて、ほかの国にはなかなかないのです」
確かに、落語は一人で複数の人間を演じ分けます。声色を完全に変えたりすることもないのに、見事なものです。
「落語を観る前は、落語を古臭い、つまらないものだと思っていました。でもね、自分で考えることなんて大したことないんですよ。思い込み、ってつまらないよ」
落語は、学生時代の昇太さんが思っていたよりずっとずっと大きな世界だったのでした。「自分の思い込みなどたかがしれている」。それこそ、昇太さんが落語に教えてもらった人生観だったのかもしれません。