今や商品名にも続々登場する「スパイスカレー」。水野仁輔さんはその言葉をタイトルにした著書を14年前に出していた「スパイスカレー」を始めた人。日本でカレーの本を一番多く出している”カレーの人”です。イベントや移動販売、独自の配合でのスパイスのサブスクリプションなど、レストランとは違う筋道で人々をカレー愛へと導く水野さんに、今一番気になっているカレーにまつわることを伺いました。
日本のカレーのトレンドを牽引し続けて25年。水野仁輔さんが、まず衝撃のカレーに出会ったのは小学1年生のとき。生まれ育った静岡県浜松市のインド料理店「ボンベイ」のカレーでした。
「『ボンベイ』のカレーはかなり本格的でした。シェフは東京の店で修行した後、インド、パキスタンと放浪しながら現地のカレーを食べ歩いてきた人だったので。僕は中学生になると、小遣いで一人で行きましたし、高校を卒業して東京の大学へ行くことが決まると『ボンベイのない生活に耐えられるか』と、真剣に考えたほどです」
上京して一人暮らしを始めた水野さんは「ボンベイ」の代わりの店を探すか、自分で作るかだと思い、とりあえず渋谷のカレー料理店でバイトを始めることに。
「ガイド本を買って、カレーの食べ歩きもしました。大学3年からは神保町にキャンパスが移ったので、カレー三昧でしたね。特に『共栄堂』にはかなり頻繁に行きました。やがて浜松の『ボンベイ』は閉店になり、僕は『ボンベイ』ファンからカレーそのもののファンになりました」
水野さんは、食べ歩くことでいろいろなカレーの味わいを知り、スパイスの組み合わせの面白さにはまっていきます。
「じわじわとくる『ボンベイ』の香りと味は二度と食べられないけれど、再現しようとは思いません。記憶として刻んでおきたいんです」