笑顔はもちろん、困っているような顔ですら、観ている私たちをほっこりした気持ちにさせてくれる。そんな稀有な落語家、桂宮治さん。「人見知りで、できれば人に会いたくない」という意外な素顔の理由は、たくさんの人を力いっぱい見つめてきた人生経験からくるようです。
桂宮治さんといえば『笑点』の明るい緑の着物が思い浮かびます。宮治さんが『笑点』に登場したのは、2022年1月。その着物の色は、故・桂歌丸さんが回答者時代に着ていた色でした。
「司会者になられてからの歌丸師匠の着物は、もうちょっと濃い緑だったんですが、回答者時代に着ておられた色ということで、すごくありがたくて、プレッシャーもありましたね。子どもの頃から見ていましたし。僕も長くレギュラーをやらせていただいたら、そのうち『ああ、宮治の色だね』と皆さんに思っていただけるよう頑張ることが、先輩方への恩返しかなと思っています。まだまだですけど」
レギュラー起用の声がけから発表までの間は結構長い時間、黙っていないといけなかったそうです。
「それを黙っているのは、もう決まっているし、ありがたいことだから、そんなに苦しくなかったんです。それよりも、『笑点』の若手大喜利に長らく出させてもらっていて、そこでの先輩方に『次はお前だろ、言えよ』みたいに言われたときは、つらいなあと思いましたが」
宮治さんは、2021年の1月に真打になっていますから、そこから1年で『笑点』レギュラーになったという早い抜擢でした。
「たまたま真打にも早くならせていただいたり、そこからすぐ『笑点』メンバーになるとか、確実に運なんですよ。それを掴めるかどうかはあったかもしれませんが。自分の努力や実力だけではどうにかなるという世界じゃないですから。まあそれは、どこの世界でもそうなのかもしれません。会社組織にいても、上に行けるかどうかは、どういう上司や先輩に引っ張ってもらうか、どういう人と出会うか、仲良くなるか、馬が合うか。そういうことによって違ってくるでしょう。ある程度頑張っている人たちのなかでは、やっぱり運だと思います」
しかし、宮治さんが運を自身の手でしっかりと掴める人。そこには並外れた気遣いや人見る目があるのです。
例えば、こんなエピソードがあります。真打披露興行の初日、私の知人が末廣亭を取り囲む長蛇の列に並んでいると、宮治さんが現れて、ひとりひとりに使い捨てカイロを手渡し、お礼を言ってくれたのだそうです。
「夜中から並んでくれた人もいたし、後からの人はもう入れない人もいたんですね。それでね。朝早く行ったんです。そんな並んで観るほどのもんじゃないです…」
またまた困った顔になりました。宮治さんは、人から見れば大した気遣いだと思えることを、そう思わず当たり前にやってきたのかもしれません。